
ミュニシパリズムは、地方自治体を意味するmunicipalityを語源とし、政治参加を選挙による間接民主主義に限定せず、地域に根づいた自治的な民主主義や合意形成を重視する考え方や運動のこと。一言でいえば〈地域主権主義運動〉だ。また、「コモン」(水、空気、土地、エネルギー、食、気候、交通、通信、医療等の人間社会にとって欠かすことのできない共有財)を、市民自治(自己統治×地域・自治体)と直接民主主義によって、グローバル資本や権力の独占から取り戻す運動総体といえる。
この本は、7人の著者が「コモン」の再生とその共同管理を通して「自治」の力を育てることの実践と考え方をそれぞれ論じている。読んでいて感じることは、市民自治の力で「コモン」を取り戻し、コモンの共同管理を通して市民自治を育てることの内容豊かさだ。コミューンのイメージ。
松本卓也さんが、何らかの法律や制度も(民主的自治的につくった組織も)、どういうふうに工夫して運用、運営していくか。そのものが自治の実現の場であり過程であると述べていることが、とても新鮮に感じられた。当たり前のことを言っているようで、運営や過程そのものに「どのような社会を目指すのか」が深く内在していることに気づかされ、ハッとする。
岸本聡子さんは、地方自治こそが民主主義を再稼働させる最重要のカギであるという。これまでの、国家権力を掌握した国の経済・政治から、地方・全国の社会革命へという道筋と逆というか、双方向だがより逆方向を重視している。発想の転換だ。旧来の「革命か改良か」という偏狭な議論から自由になれそうだ。
グラムシの言う「機動戦と陣地戦」とも重なってくる。岸本さんはさらに、政治のフェミナイゼーションと「ケア」の思想を強調する。「ケア」とは、「まわりの人々から人間以外の生物や環境まで気遣うこと」であり、「人はケアされて生まれ、人生通じてケアしあい、ケアされて人生を閉じる」という。マルクスの「人は個に死して類に生きる」は冷徹な本質だが、より暖かい本質の感じがする。
ミュニシパリズムは理念や革命戦略そのものではないが、何よりも現実の〝階級闘争〟だと言えるだろう。(石田)
