岡真理さん

パレスチナ問題やアラブ文学が専門でガザへの渡航歴もある岡真理さん(早稲田大学教授)の講演会が大阪市内で行われた。その要旨を紹介する。(1月27日、主催は「うずみ火講座」/文責・編集委員会)

歴史を知ること

昨年の10月7日以来、パレスチナのガザで起こっていることとその歴史的な背景を、私達は知る必要がある。イスラエルの軍事的な侵攻により、2万6000人の市民が殺されている。一日平均で200人以上だ。
1948年のナクバ(大破局)以来のイスラエルの占領統治下で、パレスチナ人の抵抗とそれに対する無慈悲な虐殺が、70年以上にわたって続いてきた。こうした歴史をメディアは伝えてこなかった。
開戦直後、イスラエルは組織的なフェイクニュースを流し続けた。それは現在、パレスチナとイスラエルの双方の検証で虚偽であることが確定している。

民族浄化の実行

今ガザで行われているのは1948年以来シオニストが目論んできたパレスチナ人への民族浄化の実行に他ならない。このような皆殺し政策をなぜイスラエルは実行できるのか。それはガザが国際的な植民地主義の最前線になっているからだ。イスラエルの最大の支援国・アメリカの歴史は植民地主義の歴史であり、先住民虐殺の歴史だった。ガザが示しているのは、500年続く西ヨーロッパ・アメリカの(そして日本も加担してきた)グローバルな植民地主義のありようである。それがようやく可視化されたのだ。
これまで国際社会のリーダーを自負してきた人びとの普遍主義(自由や民主主義)の欺瞞性があきらかになった。パレスチナ人の知識人・人権活動家のラジ・スラーニが「ガザに国際法を適用してくれ!」と。こう叫ばなければならないほど、不法がまかり通ってきたのだ。

ICJ命令の意味

南アフリカ政府が、イスラエルをジェノサイドの罪で国際司法裁判所(ICJ)に提訴し、1月26日、ICJは「イスラエルはジェノサイド防止のためにすべての手段をとれ」と命令を出した。
この命令を報じる日本のメディアの記事は、イスラエル政府がこの命令に従うかどうか、「実効性が疑問視される」とコメントしている。そうではない。これまでの75年間、国際社会は、イスラエルに対して「イスラエル不処罰」の伝統をつくってきた。アメリカの最大の支援国がイスラエルである。政治的、経済的に多大な支援が行なわれてきた。その結果、国際社会ではイスラエルの不法性がまかり通り、イスラエル不処罰の伝統ができてきてしまった。
その転換が必要なのだだ。今回の国際司法裁判所の命令は意味を持っている。グローバルサウスと世界の市民が命令に実効性を持たせていく取り組みをしなければならない。そこに、この命令を画期的なものにできるのかがかかっている。日本で植民地主義の一つひとつに反対する闘いが、ガザのパレスチナ人への連帯とエンパワーメントにつながる。