
2月11日、「ウクライナの戦争とイスラエルのジェノサイドについて歴史から考える」と題して藤原辰史さん(京都大学教員)が講演した。(これでいいのか日本! 2024滋賀集会)
藤原さんは、ウクライナとパレスチナの戦争について、三つの視点を提起した。一つは、誰が犠牲になっているのか。二つは、この戦争で儲けているのは誰なのか。死の商人は、穀物メジャーと軍需産業である。三つは、なぜドイツはイスラエル寄りなのか。そこに見られる欧米民主主義の崩壊とその闇だ。
「欧米の闇」とは何か。藤原さんは「ナチスは、ヨーロッパ史の主流である植民地主義、人種主義、優生学にしっくり当てはまる」ことを指摘。ナチスの全体主義と欧米の民主主義は対立するものではなく同根だ。虐殺・植民・追放の植民地主義の起源は欧米にある。
ドイツは氷河が削った岩石を土台にした痩せた土地である。そのため第一次大戦時のイギリスの食糧封鎖によって76万人が餓死した。肥沃な穀倉地帯であるウクライナの領有はドイツの悲願だった。ナチスの対外政策もその流れに沿ったものだったのだ。
ウクライナでは、ソ連・スターリンによる過酷な穀物徴発と大飢饉が重なって、1932年から33年にかけて数百万人が餓死した。ホロドモールと呼ばれる「飢餓殺りく」である。このスターリンの圧政の記憶は、ウクライナに深く刻み込まれている。
ナチスは独ソ戦でウクライナを奪い取るが、ウクライナの人びとの中にはソ連・スターリンへの憎悪からナチスを「解放軍」と歓迎した人たちがいた。一方で独ソ戦に勝利したソ連は、ナチスに協力したウクライナ人を処刑したり、シベリア送りにしたりした。プーチンが「ネオナチの存在」をあげてウクライナ侵略を正当化しているのは、このような歴史的な事実に由来する。
戦後のドイツは「歴史克服の優等生」と言われているが、藤原さんによれば「それは全く違う」という。ドイツが参加したユーゴ空爆(1999年)の悲惨な事実やイスラエルによるパレスチナへの歴史的暴力を批判し、「この構造的暴力に立ち向かわなければならない。それは無気力・無関心で西側にいる私たち自身を問うことである」と話した。(多賀)
