
6年に一度の介護報酬と診療報酬の同時改定のうち、介護報酬の配分方針が1月22日にまとまった。厚生労働省は、高齢者が住み慣れた地域で必要なケアを受けられる「地域包括ケアシステム」の実現を掲げながら、在宅介護を支える訪問介護サービスの基本報酬を引き下げた。現場からは「訪問介護は崩壊する」との悲鳴が上がる。
訪問介護の有効求人倍率は22年度で15倍超だ。特に地方は都市部より厳しい状況がある。小規模事業所が多い郡部ではなり手がおらず、訪問介護が崩壊している。郡部では「在宅の高齢者は家族介護しか道がなくなってしまう」恐れがある。
東京商工リサーチが1月17日公表したデータで23年の介護事業者の倒産を業種別に見ると、特に人手不足が厳しいとされる「訪問介護」が、67件(前年比34・0%増)で過去最多となった。急速に訪問介護事業の崩壊がすすんでいる。
厚労省は昨年11月に公表した22年度の「介護事業経営実態調査」の結果を基に、今回1・59%プラスの介護報酬を配分した。「基本報酬はマイナス1%の赤字に転落した特別養護老人ホーム(特養)など施設系サービスには手厚く、7・8%の黒字を確保した訪問介護など在宅系サービスには薄くした」という。しかし、「訪問介護事業の7・8%の黒字」という数字は、上記の「倒産34%増」の現実とあまりにも乖離している。
介護報酬改悪の結果、在宅での入浴、排せつの介助などを提供する20分未満の身体介護サービスの報酬は40円下がる。掃除や洗濯など20分以上45分未満の生活援助サービスの報酬も40円引き下げられる。これは仮に同種のサービスを1日6回で20日間行った場合、額面でヘルパー一人あたり月4800円、年6万円近くの減収となる。低賃金・強労働による人手不足はさらに加速する。
利用者と家族からは「ヘルパー不足で在宅介護が困難になり、経済的な理由などで施設にも入れなくなったらと思うと暗黒の状況だ。先が見えない」と不安の声があがる。「団塊の世代」(1947~49年生まれ)の全員が75歳以上になり、介護需要が高まる「2025年問題」は目前に控えている。在宅介護サービスがこのまま先細りになれば、「介護難民」がさらに増えるのはまちがいない。
2022年時点の特別養護老人ホームの待機者数は約27万人で、ほとんどが要介護3~5の中度・重度の高齢者だ。そのかなりの部分を、家族と訪問介護ヘルパーがカバーしてしのいでいる。現状のままでは、訪問介護事業所の崩壊からドミノ倒しで介護難民が激増する趨勢だ。
訪問介護事業への報酬マイナス攻撃に対し、各方面から抗議の声を上げ、必要な介護体制をつくりあげていくことが急務である。(淀川一博)
