東洋経済新報社から待望の1冊が出た。『介護異次元崩壊』(週刊東洋経済2月17日号)だ。
32ページにもおよぶ記事は、取材陣が現場に足を運んで執筆した労作。介護関係者はもちろん、すべての人たちに読んでほしい内容だ。

84歳で現役

最初に登場するのは、84歳で現役を続ける2人の訪問介護ヘルパーだ。現場は人手不足で辞めるに辞められない。静岡県浜松市のおさだ長田テツ子さんは、車で山道を1日100キロ走り7~8件を訪問し介護する。おむつ替え、食事介助、掃除、調理…なんでもこなす。
いまや訪問介護ヘルパーの4人に1人は65歳以上。訪問介護の事業所がやむを得ず依頼を断る理由の最多は「人手不足で対応できなかった」である。回答した90%以上の事業所が、依頼を断った経験があると答えている。このままでは10年ともたないだろう。まさに「介護異次元崩壊」の象徴だ。

ヘルパー1人に22人

特別養護老人ホームに勤務する志村奈美子さんはヘルパーとしては若手だが、夜勤のときは16時30分から翌朝9時30分までの勤務だ(途中120分休憩)。国が定める職員の配置基準を満たしてはいるものの、1人で22人の利用者を担当する。彼女は5階担当なのだが午前1時から2時間は、4階担当者が休憩に入るので1人で4階と5階を合わせて44人を担当する。かなりきつい。取材された日は救急搬送や看取りはなかったものの、それでも彼女が休憩時間以外で座ったのは一晩で30分程度だったという。
介護の世界になじみがない人のために解説すると、こうした施設に入居する高齢者がかかえる問題で多いのが「トイレに介助が必要だが、夜間のトイレの頻度が多い」というケースだ。最初は同居の家族が支えていても、特に昼間に仕事をしている場合は睡眠不足になり、いつかはパンクしてしまう。そうして集まってくる利用者を常時1人のヘルパーで22人、最大44人受け持つ。しかも基本給は21万円。夜勤手当でなんとか食べている。まさに「異次元」としか言いようがない。

投資ファンドの介入

さらに、この特集で特筆すべきは投資ファンドの動向についてしっかり書いていることだ。介護業界に入り込んだ投資ファンドは「(入所施設の場合)今の介護報酬では低い賃金しか払えないので、1人のヘルパーが受け持つ利用者の基準を緩和してほしい」と政府へロビー活動を行っていると暴露されている。限界状況にあるヘルパーから、さらに搾り取ろうとする。今の介護業界がかかえる問題が、さまざまな角度から書かれている。24年の必読の1冊だ。(小柳太郎・介護ヘルパー)