「10・7ハマスの戦闘」について、哲学者の高橋哲哉氏は「ショアからナクバへ、世界への責任」(『世界』3月号)で、ユダヤ人による「ワルシャワ・ゲットー蜂起」を想起したという。1942年ワルシャワ・ゲットー内の左派シオニストの青年たちが、反ナチ抵抗組織「ユダヤ人戦闘組織(ZОB)」を結成し、司令官モルデハイ・アニエレヴィッツたちが収容所へむかう列車に乗らないよう抵抗を呼びかけ、ゲットー警察長官らを殺害。100カ所以上のゲットーでユダヤ人グループが地下抵抗運動を組織し、ポーランド・レジスタンスと連絡をとって武器を集め、43年4・19に約750人の部隊が武装蜂起を開始した。その鎮圧にドイツ軍の精鋭部隊が1カ月を要した。5万6千人が逮捕され、7千人が射殺され、残りが収容所に送られたが、「輝かしい記憶をユダヤ人たちに残した」とある。
他方で、イスラエルの基本法「イスラエル-ユダヤ人の国民国家」の第7条では、「ユダヤ人入植地の拡大を国家的価値とし、その確立と強化を奨励し促進するために行動する」と、「植民化を国是」としている。もちろん国際法違反だ。
「天井のない監獄」ガザは「ゲットー」そのものだ。80年前にナチスと戦ったユダヤ・レジスタンスは、現在をどう見るだろうか。高橋氏は、反ユダヤ主義とシオニズム・イスラエル批判の区別がなくなりつつあるドイツの混迷を危惧しながら、植民地主義批判と現在的視点からの反省の行動に一縷の望みを託す。
昨年10月19日、「平和のためのユダヤ人の声」という団体の呼びかけたデモが米ワシントンの連邦議会議事堂を包囲した。デモ隊の一部は議事堂内に座り込んで抗議を続け、逮捕者は300人にのぼった。この闘いは、世界のユダヤ民衆(約1500万人)と自国政府のイスラエル支持に抗議の声を上げる米欧日の民衆、そしてアラブ・パレスチナの民衆の連帯が不可能ではないことを示したと思う。人々が心を一つにして「ユダヤ民族が受けてきたショア(絶滅)と同じことを繰り返すのか」と立ち上がれば、戦争を止める大きな力となるに違いないのだが。(啓)