厚生労働省による訪問介護事業の介護報酬減額に、全国の訪問介護現場から強い抗議の声が上がっている。訪問介護事業が崩壊すると、介護保険体制全体がドミノ倒しとなるだろう。

特養待機者が27万人

訪問介護事業の崩壊は、特別養護老人ホームに入所できず自宅で待機している高齢者と家族に、直ちに影響を与える。待機者は全国で27万人。要介護3以上、簡単に言うと朝昼晩の身体介護が必要な方たちが、90%以上を占める。
夫婦共働きがほぼ当たり前の今、朝介護してから仕事に行くのも大変だが、日中に独居状態の高齢者の食事・排泄などはどうにもできない。デイサービスを利用するにしても、自宅からの送り出しという問題がある。送迎車が利用者の玄関に着く時間は、スタッフが8時出勤の場合、車の準備や移動で早くても8時30分頃。家族が送り出しを行おうとすると、日勤フルタイムの仕事にはまず就けない。通勤時間が長ければ、なおさら。
そこで訪問介護ヘルパーの出番となる。ヘルパーがデイサービスの送り出しと、帰りの迎え入れをすることになる。このように家族がメインで介護するとはいっても、家族の形が昔の「大家族」とは異なるので、訪問介護ヘルパーの支えなしに、要介護3以上の高齢者を介護し続けるのは極めて難しい。
訪問介護の崩壊で「自宅で介護が続けられない、施設に入ることもできない」という介護難民が急増するのは間違いない。

ドミノ倒し

もう一つ。訪問介護部門の崩壊に伴い、施設系スタッフの負担が激増するという問題もある。訪問介護は在宅の要介護者を支えながら、時間をかけて高齢当事者と家族の実像を把握し、やむを得ず入所となった場合でも最善のサービスを可能にする準備を進めている。また、本人と家族が介護保険という使いづらいサービスに慣れるための猶予期間も必要である。
訪問介護サービスが壊滅すると、これら一切を施設系のスタッフが引き受けることになる。当然その負担は激増する。今でさえ退職者が多いのに、さらに増えるだろう。
こうして介護保険体制の「ドミノ崩壊」は広がっていく。行きどころのない「介護難民化」した本人、家族の「圧の濁流」は、あっというまに施設系に押し寄せるかもしれない。ドミノ崩壊を止めるのは、今しかない。(淀川一博)