
今年3月、私の勤務先の近くにある訪問介護事業所が閉鎖となりました。行き先に困った利用者さんとヘルパーの一部を私の事業所で受け入れましたが、その影響で新規利用者の受け入れが2カ月間できなくなりました。
閉鎖になった事業所の経営者(65歳男性)が、連絡してきたのは2月でした。「3月で事業所を閉鎖する。利用者さん15人と登録ヘルパー4人を、そちらで受け入れてもらえないか」という依頼でした。
1月22日に厚生労働省が訪問介護事業所への介護報酬切り下げを公表した矢先に、心配していたことが起きてしまいました。その経営者は、「事業所を維持するために、土日返上で頑張ってきました。同窓会では同期のみんなは、やれ旅行に行ったの、今度ゴルフに行くのなど悠々自適の様子。自分は何をやっているんだろうと思ってしまいました」とこぼしていました。
抑えられてきた矛盾
その事業所には正社員のサービス提供責任者がいましたが、「しばらくヘルパーは休み、失業保険で生活する」ということでした。疲れ切ったのか、体を痛めたのか、介護現場に戻ってくるのかわかりません。現場から経営者とサービス提供責任者の常勤2人が去ったことは地域にとって大ダメージですが、混乱はここから拡大します。
先方の経営者は「事前に利用者さんに、事業所の移行は説明する。移籍するヘルパー4人が移行した利用者をカバーできるようシフトも組むので心配しないでほしい」と言いますが、現実は甘くありません。実際に契約に伺うと、利用者さんから要求が噴出! 「あのヘルパーは換えてほしい」「この日のサービス時間を変えて」等々。結局、全スタッフのシフトを見直したため、3月から新規の受入れを停止せざるを得なくなりました。4月になっても、組み直したシフトが正常に機能するように微調整を続けている状態で、新規の受け入れはできていません。
今回のケースでわかったことは、利用者45人の事業所が閉鎖して、3つの事業所に15人ずつ利用者を振り分けたとすると、その3つの事業所は約2カ月間新規受け入れができなくなるということです。まさにドミノ倒しです。私が稼働しているエリアでは、訪問介護事業所が70カ所ありますが、そのうち18カ所(約26%)が同時に倒産・閉鎖すると、エリア全域で2カ月間、新規受け入れが不可能になるかもしれないのです。
厚生労働省の2022年公式資料では、「36%の訪問介護事業所が赤字経営」とされています。「ドミノ崩壊」が、目前に迫っています。(小柳太郎/介護ヘルパー、神戸市)
