宝島社が出版した『大阪ミナミの貧困女子』(2021年2月刊)の絶版と謝罪を求める裁判の証人尋問が1月25日、大阪高裁で行われた。訴えを起こした村上薫さんはコロナ禍の2020年夏、大阪中央区の通称「ミナミ」と呼ばれる繁華街のラウンジでホステスとして働いていた。この頃、大阪府の吉村洋文知事は「夜の街が感染の震源地」(同年7月12日)と決めつけて、府民に利用自粛を呼びかけたが、実際にはそれ以外の場所で次々とクラスターが発生して感染者数は急増。「夜の街」をターゲットとした自粛強要は明らかな失策だった。その影響はミナミで働く人びとには深刻なものだった。
当時、村上さんは仲間たちと共に労働相談所キュアを運営し、その支援活動を行っていた。そこに宝島社から出版の提案があった。村上さんは「コロナ禍のミナミで働く従業員の困窮を訴えると同時に、ミナミの街の活性化に役立つのでは」と考えて協力することにした。ところが上がってきた校正刷りは、半分以上が男性編集者の執筆によるものだったが、「女性が女性目線で書いた」と偽っていた。その内容も「コロナ禍で値崩れした女性を買って応援しよう」「高根の花が驚きの店で会える」といった女性の困窮につけこんだ差別的なものだった。村上さんの文章も、「中国人観光客がコロナ禍の元凶」といったヘイトを扇動する文章に差し替えられていた。また帯には「カラダを売るしかない女性たちの物語」というコピーがつけられており、労働者としての権利を勝ちとるために闘ってきた村上さんたちにとっては、けっして容認できるものではなかった。
村上さんは編集者にたいして内容の訂正を求めたが受け入れられなかったため、著者名から自分の名前を削除するよう要求した。しかし宝島社側は、「今更変更できない。もしも出版できなかったら1000万円の損害賠償を請求することになる」と脅して、著者名を変更せずに出版を強行した。
村上さんはこの本による差別の拡散を許さないため、そしてライターとしてさらなる被害者を出さないために、2021年10月、宝島社を相手取って裁判を起こした。一審大阪地裁では証人調べも行われず敗訴となったが、二審大阪高裁では宝島社側の小林大作証人(編集者)と角田裕育証人(フリーライター)、そして控訴人・村上薫さんの3人の証人尋問が実現した。1月25日の裁判では、宝島社の編集者が村上さんと一度も会っておらず、出版のコンセプトを確認することもなく進めていたなど、ずさんな出版の経緯が明らかになった。宝島社側が欲しかったのは村上さんの「ミナミのホステス」という肩書だけで、本人の主張とは無関係に出版を計画していたことが浮き彫りとなった。裁判はこの日で結審。判決は5月15日午後3時、大阪高裁第202号法廷で言い渡される。(葉月碧)