マルクスの本って、高校の時に『共産党宣言』を読んだくらい。『資本論』は第8章「労働日」は読んだけど、全部読んだことはなかった。ネット検索で偶然見つけたのが『マルクスに凭れて60年』だった。1983年に青土社から出版され、2023年に航思社から復刊された。
書いたのは1904年北海道生まれの岡崎次郎。24年に東大文学部哲学科入学、27年に今度は東大経済学部に入学。お父さんは、公務員だったそうだが、経済的にはゆとりがあったのだろう。
29年に東大経済学部を卒業後は著述業をしていたが、33年に満州鉄道系の調査機関で働くようになる。37年12月、いわゆる「人民戦線事件」で捕まり、1年間勾留。釈放後は満鉄調査部に復帰、満州の大連に赴任。敗戦後も、国民党の命令で中国に残された。46年5月に帰国を果たした。
岡崎次郎という人、マルクスの翻訳をするほどドイツ語の能力があったと思うが、ドイツ語の勉強で苦労したことはほとんど書かれていない。大学時代から囲碁将棋、芝居や寄席、麻雀・玉突きなどと遊びまくったそうだ。加えて、経済学者だけでなく広い交友関係に言及している。あの鍋山貞親(さだちか)に中国で会って話したことなど、興味深い。
戦後は、九州大学と法政大学の経済学部で教員をしていた。自伝なので誇張や記憶違いもあるだろうが、戦前、戦中、戦後を生きたマルクスボーイの姿を見せてくれる。

今年中に読めるか

さて、『資本論』。日本で400万部ほど売れているらしい。それだけ日本ではマルクス主義に共鳴した人が多かったのだ。日本では、何人か(鈴木鴻一郎、長谷部文雄、今村仁司)が翻訳している。そのうち買い易いというか、ポピュラーなのは、岩波版と大月書店版の『資本論』ではないだろうか。
岩波版は向坂逸郎(さきさかいつろう)訳、大月版は岡崎次郎訳となっているが、実際は両方とも岡崎次郎の訳である。どういうことかというと、岩波版はほとんどの翻訳を岡崎次郎が行い、それを向坂逸郎の訳として出版した。(向坂の翻訳は、第一分冊のみ)印税をめぐって向坂逸郎と揉めている。
大月版は岩波より遅れて出版しているが、当時の大月書店で共産党員だった小林直衛社長が、共産党員でもない岡崎に翻訳を依頼した。大月書店の社長は「海外旅行でもいったら?」と翻訳料としてポンと200万円ほど払ったそうだ。
今回、『資本論』を読むにあたり、共産党は好きでないので、岩波版『資本論』(第8章のある第二巻)を買ったけど、国民文庫版のほうが優れているそうで、『資本論入門』は、岡崎次郎の国民文庫を買うことに。『資本論』は、筑摩書房のマルクスコレクション。今年中に読めるだろうか。
(こじま みちお)