4月28日投開票が行われた衆院3補選で自民党が全敗した。特に「岩盤保守」と言われた島根1区での自民敗退は全国政治に大きなインパクトをもたらしている。
今回の補選は島根1区、東京15区、長崎3区の3選挙区で行われた。自民党は東京15区と長崎3区には候補者を立てずに「不戦敗」。島根1区に全力を集中した。岸田首相は、選挙公示期間中に2度も島根に現地入りした。島根は小選挙区制度開始以来、自民党の細田博之(元衆院議長)が議席を確保してきた。政権交代した2009年の総選挙でも対立候補に4万票の大差で当選していた。

過去最低の投票率

今回の島根補選の最終投票率は54・62%で過去最低を更新した。選挙は組織戦の様相となり、一部では「組織基盤の強い錦織候補が終盤で逆転か」との予想も流れた。
しかし、午後8時の投票終了と同時に報道各社は一斉に「亀井候補当選確実」を報じた。自民候補は惨敗した。
各社の調査によると今回の島根補選では、これまで自民党に投票してきた有権者のおよそ30%が亀井候補に投票したとされる。その主な理由としては「裏金・キックバック事件とその後の処分に対する不満」と「地方切り捨て、過疎化問題」があげられた。また、自民党支持者層に年金生活者の割合が増え、現在進行中の円高・物価高騰にたいする不満と不安を原因とする指摘もある。
ただし、これはあくまで「補選で自民党にお灸をすえる」という要素が強い。補選そのものでは政権交代はないからだ。その分不満が行動に出やすい。今回の結果が総選挙の投票行動にストレートに政権交代に結びつくかどうかは不確定だ。
それに踏まえて、今回の選挙結果の分析を慎重に行っていく必要があるが、「岩盤保守」島根県で与野党の一騎打ちで野党候補が勝利したことの意味は大きい。前回総選挙での自民の獲得議席数は261だった。絶対安定多数をぎりぎり守ったかたちだ。自民の選挙区選出議員のうち2割(35人)が、次点との差が1万票以内の辛勝で、けっして安泰とは言えない。10増10減の選挙区見直しや議員引退などで、自民党は約30人を次期総選挙の強化対象としている。そこに今回の「島根ショック」が直撃した。自民党内では「与野党一騎打ちに勝てる」という自信が揺らいでいる。
それでは自民党を倒し政権交代を実現して、改憲、軍拡を阻止し、暮らしを取り戻すことができるのか。それを可能にする政策と政権構想が野党にあるのか。あるべき政治の姿を提示する責任は市民の側にもあることを忘れてはならない。(淀川一博)