瀬嵩の浜へ向かう国道

悪天候の予報で延びた「沖縄の民意・自治・尊厳を守り抜く県民集会」が4月14日に、大浦湾に面する瀬嵩の浜で開かれた。この日も雨模様だったが、1200人ほどが集まった。なぜ瀬嵩の浜か。埋め立てを阻止する最前線の一つであり、海上という一番厳しい場所だからだろう。

サンゴの破壊は犯罪

その日は日曜日、海上での工事もなかったが、海上の作業ヤードを建設中と思われる一画にフロートが張られていた。テレビの映像などで、そこに石材が投入されている場面を見ていたため、投入を阻止しようとするカヌーの漕ぎ手を海保のゴムボートが拘束するシーンが眼に浮かぶ。
その目線の先には黒い大きな石材運搬船が停泊している。監視として雇われた小型漁船か、警備会社の船なのか、数隻がフロート周辺に浮かんでいた。沖には海保の白い大きな巡視船も見える。
今後、工事の場所は拡大していく。それに伴い貴重なアオサンゴ群落を始め、豊かな海の生物が殺されていく。本来なら犯罪である。この犯罪はなぜ許されるのか。根源にあるのは「戦争への抑止力」という虚構である。

「抑止力」観の弊害

抑止力という「共同主観」は、金遣いの暴走も許す。大浦湾埋め立て予定地の軟弱地盤に、7万本以上の砂杭を打ち込むことになっている。琉球新報(5月5日)によると、そのための作業船3隻の改造費に20億円の公費が使われる。そもそも辺野古新基地建設費は、9300億円と公表されていた。これらの改造費などは後から追加される。抑止力「共同主観」は果てしない「金遣い合戦」をもたらす。
その連鎖は世界中に及んでいる。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が発表した全世界の軍事費合計は、前年比3・7%増の約2兆2400億ドル(約300兆円)。日本もランキング10位の6・16兆円、GDPの1%を超えている(23年4月24日発表)。今後も、軍事費は増大する。日本だけ見ても岸田総理は、2027年にはGDPの2%を軍事費に充てるようにすると言う。それは12兆円を超える。その軍拡の行きつく先に、何が待っているのか。
ところで私たちは、もう一つの「共同主観」を持っている。日本国憲法の前文である。前文には「人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とある。
我々サピエンスという人類は、このような理念を生み出した。『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ著)では、はるか昔、アフリカ大陸で捕食者に怯える、取るに足りない動物であったサピエンスがなぜ現在のような食物連鎖の頂点に立ち、地球を支配するような存在になったのだろうか、という問いに、「多数の見知らぬ者どうしが協力し、柔軟に物事に対処する能力をサピエンスだけが身に着けた。このサピエンスならではの能力を可能にしたのが想像力だ」と述べている。
「気を付けろ、ライオンだ」という言語を操れる人類は他にもいたが、「ライオンはわが部族の守護霊だ」と話すことができたのはサピエンスだけだ。その想像力のおかげでサピエンスは、複雑な社会を形成することが可能になったと言う。
「抑止力」というのは、「気を付けろ、ライオンだ」という言語を操る人類レベルの想像力。憲法前文の理念を生み出したのは、「ライオンは、わが部族の守護霊だ」と話すサピエンスのレベルである。「賢いヒト」と言われるに値するのは、後者の想像力を持てるからであり、他の人類は滅んだのだ。(富樫 守)