第6回アジアから問われる日本の戦争展2024=4月27日~28日、大阪市

4月27日から28日にかけて2日間の日程で第6回アジアから問われる日本の戦争展2024が阿倍野市民学習センター(大阪市)で開かれた。その1日目に、10年前に発足した「新外交イニシアティブ」の代表を務める民間外交活動家の猿田佐世さんが講演を行った。

米外交戦略の転換

この日の講演のテーマは「アメリカとは一体何か?」。「それを簡単に言うことはとても難しい」と猿田さんは話す。ただし、現在のアメリカの外交政策が米中関係を「戦略的競争関係」としてとらえ、そこから具体的な政策がくみたてられていることは間違いないという。アメリカの最大の関心事は、「競合する中国にどうやって勝っていくのか」にあるのだ。
そこで「同盟国との関係を重視し、同盟国の軍事力を自国(アメリカ)の抑止力に組み込む『統合抑止』という考え方に転換している」と猿田さんは分析する。それは日米韓、日米豪印、AUKUS(米英豪による対中国の軍事同盟)など少数国の協力枠組みをいくつも作って、中国に対抗しようというものだ。アメリカをハブとして、各国をスポークでつなぐ従来のような一対一戦略から大きく転換している。

ワシントン拡声器

ではアメリカの外交政策の実態はどうなっているのか。猿田さんは「それはワシントンという都市の独特な性格を注目すればわかる」という。ワシントンはアメリカの首都であると同時に、国際政治の中枢の役割を担っている。その人口はたかだか70万人程度であり、住民のほとんどが政治・外交に関わる政治家・官僚・知識人・報道機関の人間たちだ。ワシントンで話されたことは瞬時に全世界の通信社によって世界中に配信され、世界の世論を形成する。そのような機能を持つ都市は世界中でワシントン以外にはない。
日本政府は、ワシントンのCSIS(戦略国際問題研究所)などのシンクタンクに毎年多額の寄附をしている。そしてそのシンクタンクが発表する提言(アーミテージ・ナイ報告など)を「アメリカの声」として長年利用してきた。猿田さんはこれを「ワシントン拡声器」と呼んでいる。
例えばある自民党の議員がワシントンでアメリカの連邦議会の議員と交わした会話を記者会見で取り上げて、「アメリカの議員は○○と言っていた」と記者たちの前で話したとする。ワシントンの記者会見に来ているのは日本のマスコミだけだが、日本の大新聞では翌日の朝刊に大見出しで、その発言があたかも「米国政府の見解」であるかのように紹介される。
実際には、アメリカの連邦議会の議員たちは、日本のことをほとんど知らないし、関心もない。だからワシントンにおいて、「日本関係の影響力をもつ知日派」は、せいぜい5人、多くても30人程度だ。そのごく限られた人たちの意見で、日本の外交政策が決定されているのだ。
猿田さんは、「これをいわゆる『対米従属』と批判して、簡単に『日本はアメリカから独立しなければならない』と言うことはできない」と話した。なぜならそれは、「日本の自発的従属であり、積極的に日米同盟に価値を見いだす外交政策を日本政府がとっている」からである。その構造は簡単には覆せない。
現在のアメリカは、単独で世界の覇権国家となることはおぼつかないが、アジアで対中競合に勝たなければならない。そこで日本をうまく利用したい。日本もその関係の中で生き延びようとする。だから先日、訪米した岸田首相は、アメリカの連邦議会での演説で、こう強く叫んだのだ。「米国は独りではありません。日本は米国と共にあります!」と。猿田さんは、「この言葉の中に、世界政治の中の米日関係が示されている」という。

民間レベルでの制度化

猿田さんたちの新外交イニシアティブは、民間外交の力により平和をつくることを目指しているが、「米国外交は良くも悪くも反面教師」だという。先日、猿田さんがアメリカの外交当局のセットした多国間交流の場に参加した。そこで多用されていたのがinstitutionalization (制度化する)という外交用語だった。例えばある特定の分野で国同士の協力関係をつくることが決まったら、その分野に関連する政府のトップレベルから民間レベルに至るまで、きめ細かい会議や討議の場を設定しながら、政府間の協力関係を具体化するというものだ。
猿田さんは「政府とは別に、民間レベルでもっと多様なチャンネルで制度化に取り組んでいく必要がある」と強調した。中国との関係でも民間レベルでの様々な可能性がある。そうした制度化された民間交流を継続することで、戦争を防ぎ、平和を維持することができるというのだ。新外交イニシアティブは、実際に沖縄の玉城デニー知事と米議会との交渉などをセットしてきた。
またASEANは、加盟国が、独自の国益を考えて外交政策を緻密に取り組んでいる。そうやってフィリピンはアメリカとの交渉の末に、米軍基地の撤退を実現してきた。
一方、日本政府は、日米地位協定の改定を積極的に言い出せない状況が続いている。ところがアメリカ大使館は、国会で米軍基地の問題がどう議論されているか、日本全国で開かれている様々な市民活動について、とても敏感なのだという。
猿田さんは「市民が行動を積み重ねていくことで、政治を変え、外交を変えることができる。今日の話を周りの人、若い人に伝えてほしい」と訴えて講演をしめくくった。(西田太一)