わが憲法は、国民主権のもと国会を国権の最高機関としている。国の大事は国民の代表者で構成される国会で審議、決定され、国民は代表者らによる国会の審議を見守る権利と義務がある。戦争に匹敵する自衛隊の武力行使、その開始と存続は国の最大事である。国会の審議を怠ったり回避することが許されるはずはない。「平和ボケ」したわが国民も、今やこのことを肝に銘じなければならない。明治憲法下の「戦争秘密主義」を頭から払いのけなければならない。
自衛隊の武力行使の開始を定めた自衛隊法76条1項には、内閣総理大臣の出動命令に「国会の承認」が必要とされている。憲法の国民主権、国会の国権最高機関性からみて、まことに当然であるとともに極めて大事な定めである。この規定を単なる名目にとどめ軽視することは許されない。

「台湾有事」

「台湾有事は日本の有事」と言われて、さまざまな議論がなされてきた。そのなかで、多くの論者は「台湾有事となって日本の存立危機となれば自衛隊が出動することになる」と警告するものの、台湾有事がなぜ日本の存立危機となるのかを説明する者はほとんどいなかったように思われる。論者らは、意識か無意識か知らないが、大事なことを忘れあるいは軽視していたのである。台湾有事に自衛隊が出動するには「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」という厳格な要件が必要であり、しかも、その要件について国会の承認を得る必要があることを。その厳格要件からみると、台湾海峡でドンパチが始まったからといって、中国に日本攻撃の意図がない以上、ただちにわが国の存立危機事態とは考えられないはずだ。

歯止めなき拡大

日米の指揮権統合を追及する国会は、政府の説明回避を許してはいけない。国権の最高機関たる国会は平和と戦争にかかわる切迫した最重要事項を審議している誇りと自覚を持つべきである。秘匿しようとする政府の態度は憲法9条を逸脱しようとする卑劣な態度であって許されない。追及ができぬままに、米軍と自衛隊の指揮統制機能が密約化され、自衛隊の武力行使の歯止めない拡大に道を開いてはならない。
市民運動は国会審議を注目し、平和勢力の国会での活躍を励まし続けなければならない。
付言すれば、国会の保守陣営の中にも、新安保体制の変質、無制限化についてはこれを憂慮する議員がいるはずである。公明党は自衛隊法76条1項二号の「存立危機」の厳格要件を加えるのを提起した政党である。彼らなりに憲法9条を理解し、他国間戦争に無制限に加担することに歯止めをかける必要を認識したからと思われる。このような議員、政党とは、「指揮権統合」問題の国会審議では、政府の説明拒否態度を不当とみて、国民の負託にこたえる審議に協力し合えるはずである。政党間のさまざまな確執はあろうが、平和・憲法のために協力し合ってほしい。市民運動の側でも、たとえば創価学会員に働きかけるなど幅を広げる努力をすべきではないか。
(西神ニュータウン9条の会会員 伊東武是(たけよし))〔本稿は、ブログ『隠居老人の日中不戦祈願』から、筆者の承諾を得て掲載しました。竹田雅博〕