熊本地震の発生時に配られた性暴力に関するチラシ

「女性と子どもへの暴力」とは
 身体的な暴力、ちかん・わいせつ行為、同意のない性行為の強要、言葉や精神的暴力、生活費を入れないなどの経済的暴力も含み、加害者は他人だけでなく、配偶者やパートナー、恋人も含む。以前からの暴力が、震災によってさらに悪化した場合も含む。
(東日本大震災女性支援ネットワーク・調査票表紙より)

一本のテレビ報道

阪神淡路大震災から25年目の2020年3月、NHKで「埋もれた声 25年の真実~災害時の性暴力」という番組が放映された。未曽有の人的物的被害を受け、ピーク時には最大30万人が避難所生活を余儀なくされたとき、避難所で性暴力があった。加害者には配偶者や同居人、同じ避難所の住民、さらに避難所運営のリーダーや支援関係者もいた。番組では、長く語られなかった真実が伝えられた。
「避難所のリーダーに(夫を亡くして)大変だね。タオルや食料をあげるから夜に取りに来て」と言われ取りに行くとあからさまに性行為を強要された。/仮設にいる男性がだんだんおかしくなって、女の人を捕まえては暗い場所で裸にする。周りの人も若いから仕方ないねと見て見ぬ振りで助けてくれなかった。/複数の男性に暴行を受けた。騒いで殺されても、海に流され津波のせいにされる恐怖があり、その後、誰にもいえなかった…」(番組ホームページより)。
「避難所で性暴力なんて信じられない」と多くの人が目を背け、一部のメディアは客観的資料がないと「デマ」扱いし、告発した人たちに激しいバッシングが浴びせられた災害時の性暴力。この問題を取り上げた番組は大きな反響をよんだ。

東日本大震災でも

本紙386号「災害とジェンダー①」で、東日本大震災時の大規模避難所(ビッグパレット)で、女性や子どもの人権が顧みられない現実を見て、自らも被災者でありながら立ち上がり、避難所に女性専用スペースを実現し、その後も女性によりそう支援活動を続けられていることを紹介した。この渦中の11年5月に結成されたのが、「東日本大震災女性支援ネットワーク」である。それまで女性や子どもへの支援に関わってきたグループ、学者、研究者など、全国の女性が立ち上げたもので、福島の女性たちも加わっていた。同ネットワークは13年に「東日本大震災『災害・復興時における女性と子どもへの暴力』に関する調査報告」を発表した(15年に改訂版。146ページ、PDF版を全文ダウンロードできる)。

報告書の中から

「性暴力の被害者は10代から60代までの女性や子どもたち。場所は避難所、自宅、仮設住宅を問わずさまざま」
「時期は震災直後から。加害者は夫、元夫、交際相手、家族・身内、避難所住民やそこのリーダー、支援者・ボランティア、震災対応をしている同僚など」
「加害者も被災者であることが少なくない」
「対価型(見返り要求型)の暴力」は、上述の例にあるように、夫や家族を亡くしたり、失業など、女性の「弱み」につけ込んで、物資配分や避難場所の便宜提供の裁量権のあるリーダー格の男性による加害。
DVについて。「震災で夫が失業、夫婦二人の原発の賠償金が夫の口座に入ってパチンコ通い―そこで知り合った女性と結婚したいから別れると毎日言う。/震災前から酒を呑むと暴力を振るっていたが、津波で全部を失い、夫は別のところで漁師。送金してこない … 」
これらについて報告書は次のように書いている。「夫・交際相手による暴力は … ひとつに限るのではなく、身体的暴力、言葉による暴力、経済的暴力などのいくつもの暴力が複合的に、そして継続的に繰り返してふるわれていることが見てとれる。ここに示したのは報告された一部の事例であり、暴力の内容もさらに多岐にわたる …」
「子どもに対する暴力の内容は … 成人への暴力と同様、異なる暴力が重複してふるわれる」「具体的には、避難所において男性が見知らぬ子ども(女子)に抱きついた、触れた、キスしたといった事例、避難所の住民が少年の下着を脱がした事例など」。またDVの間近にいる子ども達も虐待の犠牲者。報告書はこうした被害・加害の状況をまとめ、検討と考察を重ねていく。(新田蕗子)