
精神医療歪める日精協
全国1186の民間精神科病院が加盟する日本精神科病院協会(日精協)。地域の支部長が「ふさわしい」と認めた病院だけが加盟を許される団体だが、悪評高い神出(かんで)病院も加盟しており、何をもって「ふさわしい」としているのか、首を傾(かし)げざるを得ない。
日精協会長の山崎学氏は、ばく大な政治献金によって政府与党に大きな影響力を持ち、厚生労働省の政策を左右するほどと言われている。
その一例が、2022年5月の「第10回地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」だ。「不当な拘束をいかに少なくするか」を話し合うはずだった検討会に押しかけた山崎会長は、「参考人」として一時間以上にわたって、「身体拘束の必要性」を説く持論をまくし立てた。さらに国の医療行政の不備を突きながら、「それをカバーしている民間病院の苦労がわかっているのか」とばかりに厚労省の官僚たちを威圧し、まんまと彼らの翼賛発言を引き出すことに成功した。その結果、この検討会は開催の趣旨とは正反対の「身体拘束の強化」に集約されてしまったのである。この時の議事録は厚労省のホームページで見ることができるが、日本の医療行政がどのように歪められていくのかが手に取るようにわかる。
患者・被害者の救済を
それでは当事者である精神障がい者の声を聞いてほしい。まず兵庫県精神医療人権センターの吉田明彦さん(患者当事者)の講演から。
「神出病院事件の加害者たちの刑事裁判は終わり、判決も確定した。1名の看護助手は懲役4年の実刑。2名の看護師が懲役2年の実刑。あとの3人は執行猶予が付いた。しかし重要なのは、彼らが就職する何年も前から虐待は続いており、彼らはそういった環境で良心を『麻痺』させられて犯行に及んだということだ。つまり何十年も続く病院の体質こそ問題にしなければならない。
2021年10月22日に、神戸市福祉環境委員会で重要な決定が行われた。大澤次郎院長(当時)の精神科指定医資格取消しを国に求めること、第三者委員会に神戸市職員自身が参加すること、神出病院職員への研修、そして最も重要なこととして、今も入院している患者と家族に対し、転院・退院の意向確認を含む支援を外部に委託することである。しかし残念ながら被害者や入院患者の救済は全く進んでいないのが現状だ」(一部抜粋)
このような精神障がい者や神戸市の医療関係者たちの追及に対して神出病院は、業務改善命令への回答として以下の対策を提示した。それはなんと「警備員の配置、夜間巡回、監視カメラの強化」といった治安対策だった。「職員や患者を監視すれば虐待はなくなる」という安易な発想はいったいどこから生まれるのか。「精神科医療において神出病院は何を喪失していたのか。その根本的本質的原因は何か」を問う姿勢が全くない。
社会の風を送り込む
次に兵庫県精神障害者連絡会(兵精連)の闘いを紹介したい。2022年10月20日、兵精連のメンバー5人は神戸市保健課と交渉を行った。
「市の発言からは、神出病院に対する怒りも改善の熱意も、何よりも何十年にわたって問題にしてこなかった(握りつぶしてきた)神戸市行政の反省が見られない」というのが交渉に参加したメンバーの感想だった。その後、兵精連は厚労省交渉も行ったが、厚労省側は「指導権限は神戸市にある。市はきっちりとやっている」と無責任な対応に終始した。それでもあきらめずに彼らは神戸市との交渉を繰り返し、昨年6月には神戸市保健課と調整した上で神出病院訪問にこぎつけた。
神出病院の説明は院長交代などの人事面や設備面の改善点だけを強調するものだった。説明の範囲も患者数で40人程度に限られ、それ以上の見学は拒否された。入院患者のほとんどを占める二百数十人が鍵のかかった閉鎖病棟に一日中閉じ込められているという状況は事件前と変わりがなく、そこには隔離の必要がない患者も収容されているようだった。神出病院への訪問・見学は、その後も実施している。
兵精連代表の高見元博さんはこの闘いを「蟻の一穴」と謙遜するが、私は立派な闘いだと思う。入院患者さんと顔見知りになり、意思を疎通し、「相談にのりますよ」と名刺をわたすなど、閉鎖空間に社会の風を送り続けるのは重要な取り組みだ。それが病院経営側に圧力となるだろう。
兵精連は「こんな病院はなくせ」「再建ではなく解体を」と声明を出している。私も人里離れた精神科病院や障がい者施設に人間を隔離・収容することに反対だ。虐待は「異常な閉鎖空間」で生じ、患者の人権・人格は、社会から隔離されると簡単に踏みにじられる。
イタリアでは1960年代から、患者を地域に戻し、精神科病院をなくしていった(バザーリア改革)。欧米では多くの国がそれに続いた。精神科の患者の入院は町の一般病院が受け持ち、入院は原則短期とし、訪問医療・看護など地域の受皿づくりが取り組まれた。
「精神科病院をなくすのは現実的ではない」と思う人もいるだろう。しかし、障がい者にとっては「隔離施設の解体」は悲願である。
朗報がある。愛媛県では149床の精神科病床を閉鎖し、精神障がい者の就労と地域おこしが取り組まれている。悲願実現への貴重な一歩前進である。(おわり)
