
相談電話は今も
福島県郡山市のウィメンズスペース・ふくしまでは、今も「東日本大震災による女性の悩み・暴力相談電話」を続けている。震災翌年の12年は2万0223件に上り、時が過ぎた23年度も1028件も受けている。心理的問題(PTSD)や家族問題・夫婦問題・DVなど様々だが、ほとんどの相談者が地震・津波、そして原発事故での避難生活を(複数回)経験しているという。
それまでの生活を根こそぎ破壊され、夫婦も親子も地域も引き割き分断した原発事故。支援金や補償金、賠償金が世帯主(夫)の口座に入るシステムは、往々にして生きがいをなくした夫のギャンブル資金となり、女性は家を出たくともお金がない…スタッフは「相談の内容の底には原発事故が必ずある」という。
少しずつ前進、でも
「女性ネットワークによる調査報告書」は、繰り返し指摘する。「災害時の性暴力は個人的な問題ではなく、災害時特有の問題でもない」「災害以前から存在する社会的構造が災害時には拡大し、より顕著になり、女性や子どもは暴力や搾取の標的とされやすくなり、平常時より被害の影響がより深刻になる場合もある」と。そして課題と提言として、9項目をあげている。
①災害時の環境的要因を考慮した暴力防止と対応、②暴力の構造に呼応した対応、③被害を受けた女性と子どもの多様性に応じた暴力防止と対応、④加害を防ぐ、⑤より効果的な相談・支援体制の構築、⑥災害対応および支援関係者への研修、⑦効果的な対応や体制の強化、⑧災害対応に関する意思決定への女性の参画と男性との協働、⑨今後の調査研究の課題。
これらの内容は、国の「防災基本計画」や内閣府の「防災・復興計画取組指針」などにも反映され、ソフィア基準をベースにする「避難所設置ガイドライン」なども策定された。自治体の取り組みも始まっているが、1月の能登半島地震は、まだまだ道は遠いと思い知らされた。
能登の女性たちの声
能登半島から6カ月が経とうとする今、復興どころかライフラインの復旧もまだ遅れている現実は私たちの責任も問うている。そうした中、能登の女性のネットワークが結成され、北陸地方のNPOと協働で「女性の経験と思いに関するヒアリング調査」が行われ、4月25日に報告書が発表された。ヒアリングの事例には、リアルで切実な様々な女性たちの声を聞くことができる。(「彩りあふれる能登の復興へ」でダウンロード可)
その声を元に課題として次の3点があげられている。①避難所運営に、女性や多様な人びとのニーズが十分に把握されていなかった。②炊き出しなどの労働は、主に女性が、長時間にわたり、無償で担っていた。③ 震災の影響のみならず家族・親族のケアのために出勤できず失職した女性がみられた。
そして、課題の根底にあるのは、日頃から住民組織の長に女性が圧倒的に少なく、女性が発言しにくい状況/無償ケア労働(家庭内で無償で行われる家事・育児・介護・看護などの「ケア」にまつわる労働)の女性への著しい偏り/それを「当たり前」とする平常時からの性別役割分業意識があると分析している。
また、今後の「能登復興」策定や実施の場には男女同数を、平常時から男女共同参画の視点を持った行政、社協、住民組織、支援者の連携体制の構築。行政職員や支援団体関係者、被災者自身へのケアと「女性の健康、安全、尊厳に係る相談窓口」の充実、女性の雇用問題、母子世帯の支援策、世代・性・言語・文化的背景の違いの配慮などを提案している。
「(女性や子どもなどの)脆弱性の解消は、その根源である社会構造を変える必要がある。とてつもなく大きな課題である。だが、女性たちや志をともにする男性たちは、これまで性に基づく暴力やさまざまな差別に関して、声をあげ、啓発、防止活動、被害者の支援、調査、法改正などを積み上げてきた」―これは女性支援ネットワークの報告書の終わりの一文である。この思いを共にして輪を広げていこう。(おわり)〔新田蕗子〕
