
6月1日大阪市内で、2024年中学校教科書採択に向けての教科書集会があった。「子どもたちに愛国兵士づくりのための教科書採択を許してはなりません」と題する、相可(おうか)文代さんの話を聞いた。(佐野裕子)
教科書は民主教育の要
1997年に「新しい歴史教科書を作る会」が登場し、地方自治体の首長の力を動員した育鵬社教科書採択の動きが広がった。これに対して教科書展示意見書提出や、教育委員会へのアンケート、申し入れ行動など、持続的な市民の取り組みを通して、この動きを後退させてきた。しかし今年になって、これまで検定不合格だった令和書籍が合格した。令和書籍の「歴史」は、皇国史観にもとづく戦前の国定教科書「国史」とそっくりで、侵略戦争や植民地支配を正当化している。
相可さんは、「歴史学習は、過去を振り返り、教訓をこれからの社会に生かしていくことにある。そのためには過去の歴史を美化するのではなく、つらい過去にも向き合って、なぜそうなったのか考えるための歴史教科書が必要だ」と話した。
特に日本は明治維新以降、侵略戦争と植民地支配によって多くのアジアの人びとを犠牲にしてきた。そして310万人の日本人の命が失われ、その何倍もの人びとが傷を負った。その結果、二度と戦争をしてはならないという痛切な思いから、戦後の日本国憲法が作られ、軍国主義教育を否定し、主権者である国民を育成する民主教育の要として社会科が位置づけられたのである。
「教科書が、民主主義社会で最も必要な平和・人権・共生の視点から作成されているかを見極めてほしい」と相可さんは強調した。「日本人の誇り」を刷り込み、偏狭な「愛国心」を持たせるのではなく、良かったことも悪かったことも冷静に伝える視点。支配者・英雄の活躍物語でなく、多くの民衆の暮らしや活動を、生き生きと伝える視点を持った教科書こそ必要なのだ。
「しかし実際の教科書は、検定に合格する必要から、学習指導要領に縛られ、これらの視点がどんどん削られ、時の権力者の歴史観を刷り込む道具のような教科書すら出てきている」という。
岸田政権は、台湾有事を声高に叫び、沖縄南西諸島を軍事要塞化していこうとしている。相可さんは「どの教科書にも一長一短はあるが、少しでも良い教科書で子どもたちが学べるように、教科書展示会場に行って意見を書き、教科書採択会議を傍聴し、一人ひとりができることから始めよう」と呼びかけた。
