NHKのドキュメンタリー番組「映像の世紀バタフライエフェクト」で、ビリー・ホリデイの名曲を特集した「奇妙な果実 怒りと悲しみのバトン」(2024年5月13日放送)。その中で流れたサム・クックが歌う「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」(変化はきっとやってくる)に魅了された。メロディも歌詞もとてもいい。1960年代米国の公民権運動で盛んに歌われたこの曲が、半世紀後のブラック・ライブズ・マターでも歌われた。サム・クックは、ボブ・ディランの「風に吹かれて」を大変気に入っており、この楽曲を作詞・作曲する際にも、その影響を受けていたと言われる。またボブ・ディランも、「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」をカバーしている。
ネットでボブ・ディランが歌う「ハリケーン」に出会った。引き込まれてしまった。ディランがこの曲で取り上げたのは、1966年、冤罪事件で終身刑になった黒人ボクサーのルービン・カーターである。ディランは彼の無実を信じて面会にも行った。そして彼の事件を物語にした8分間にわたる叙事詩を書き上げた。「ハリケーン」とはカーターのリングネーム。ディランの迫真の歌唱に圧倒される。彼は「はめられたのは明白だ。こんな国に俺たちが暮らしているのが、恥ずかしい」と歌う。カーターは、2人の白人の嘘の証言と12人の白人陪審員によって殺人の罪を着せられ、終身刑となった。再審でも終身刑だった。しかし、モハメド・アリなどによる支援運動の盛り上がりで、検察の隠し持っていた証拠が明らかとなり、19年後の1985年に無罪釈放となる。その後カーターはカナダで、冤罪被害者擁護委員会の事務局長を務めた。99年には事件を映画化した『ザ・ハリケーン』が上映され、主演したデンゼル・ワシントンがアカデミー賞主演男優賞を獲得している。
2004年6月、元ボクサーの徳久元治氏は袴田巌さんが獄中で綴った「冤罪と闘った同志ミスター・ハリケーン・カーター氏へ」の書き出しで始まる手紙をカナダのカーターに届ける。この手紙はカーターが自由の身となって間もない89年に書かれたが、住所がわからないという理由で投函されず、姉の秀子さんが長年保管していたものだ。カーターから袴田さんに、「私たちは、まだ数ラウンドが残っています。兄弟よ、諦めないで」と返事が来る。その袴田さんの再審が終結し、9月26日に判決を待つ。
ビリー・ホリデイ~サム・クック~ボブ・ディラン~ルービン・カーター~徳久元治~袴田巌へと繋がった。「運動も正義も文化も、連綿と繋がっていくのだ」と、つくづく思った。「次は石川一雄さんに繋がって行けば」と願う。曲がその歴史の繋がりを感じさせる。ごらんあれ。(啓)