
種子島は人口3万人の小さな島で南北に長く、北から西之表(にしのおもて)市、中種子(たね)町、南種子町と三つの行政区に分かれている。西之表市の西12キロに周囲が16キロの「馬毛島」という小さな島がある。昔は500人以上の人口があり、トビウオや伊勢海老など豊富な魚介類が獲れた。希少な動物「マゲシカ(鹿)」などが生息し、ソテツの生い茂る自然豊かな島だった。
それが70年代に乱開発され、80年には無人島になってしまった。そこを防衛省が鑑定評価額45億円の3倍以上、160億円で地権者から買収した。さらに、その馬毛島を丸ごと自衛隊の巨大な基地にする工事が昨年1月から始まった。
米軍空母艦載機の離発着訓練(タッチアンドゴー)も行われる。それは耐えがたい騒音を発する最悪の訓練である。種子島には自衛隊員の宿舎や管理事務所、訓練施設、物流倉庫、整備工場、自衛隊ヘリポートなどが 建設され、種子島と馬毛島は一体の基地計画になっている。街中を車で走ると、コンテナハウスがあちこちに建設されている。何千人という建設関係者、作業員などの宿舎用である。既存のホテルや旅館では間に合わない。そのため島内の家賃相場が高騰し、借家住まいの人たちに大きな影響が出ている。

漁業者は、馬毛島に作業員を運ぶ「海上タクシー」を1日7万円から10万円で請け負っている。漁船を持っている人の約80%がそうしているらしい。漁業に大きな影響が出ている。地場産業の破壊と地元経済の混乱が生じ、島民の暮らしに様々な影響が出ている。
行政には多額の米軍再編交付金が交付され、西之表市20億円超、中種子町5億円超、南種子町で2億円超の合計28億円余りになる。それにより、給食の無償化や循環バス無料化、学校や公共施設の改修工事が進められている。基地賛成派の人は、交付金によって島の将来が明るくなると言う。しかし、それは本来の税金の使い方ではない。それらは巨大公共事業に群がる大企業と、その恩恵に預かれる一部業者の金儲けのために過ぎず、島の地域活性化には繋がっていない。
八板俊輔・西之表市長は、2017年に「基地建設は失うものの方が大きい。基地経済に依存しないまちづくり、将来にわたって子どもたちが安心して生活する島を築くこと。それが、今を生きるものの責任だ」と訴え当選した。さらに21年に「地域本来の力を信じて進む道が、私たちの目の前にある」と訴え、再選された。しかし数10億円という交付金が決定されてから、その姿勢が基地容認に変わった。八板市長の公約に賛同した島民に対する裏切りであり、民主主義を踏みにじっている。
基地が地元民にどんな負担やリスクをもたらすのか、十分に説明されているかどうかが問題である。基地は戦争に直結し、人びとの生命・財産を奪う。それはウクライナやガザの現状を見れば一目瞭然である。八板俊輔・西之表市長に再考を求めたい。この文面を市長あてに送付する。(なかい)
