
今年は25年度から使われる中学校教科書の採択年だが、教科書展示、意見書募集は終わっている。
育鵬社(八木秀次、百地章ら)、自由社(西尾幹二・藤岡信勝)の〝自由主義史観〟(注)の歴史教科書に加え、令和書籍から「国史教科書」が初めて文部科学省の検定合格本となった。「社会科歴史」では9社あるうち、自由社、育鵬社、令和書籍の3社がいわゆる「あぶない教科書」。
令和書籍は、明治天皇の玄孫を売りにしている竹田恒泰が、2018年に設立した株式会社だ。これまで3度、歴史教科書の申請をしたが、いずれも不合格だった。ところが「日本は神の国」という天皇史観としかいいようのない歴史教科書が合格した。文部科学省の見識が問われる。「民主主義の国」の歴史教科書としてあり得ないものだ。
驚くべきことに、巻頭から神武、綏靖(すいぜい)、安寧、懿德(いとく)と、かつて私の父親たちの世代が延々と暗唱させられた、歴代の皇位継承順位から始まる。実在が確認もされない「天皇」も含まれている。さらには『古事記』『日本書紀』の「天孫降臨」について、多くのページを割いている。天孫降臨神話そのものを、国学的エスノセントリズム(自民族中心主義)として真理とする。「男系の天皇こそが万世一系を統治してきた国である」とし、「日本は神の国である」としている。
『日本書記』の伝記を歴史的記述として扱い、「聖徳太子の事績」を「新政」とし、多くのページを割き、顕彰している。奈良時代以降も天皇記述が延々と続く。鎌倉の時代についても「朝廷」と「武士」を並べ、天皇の世であったことを強調し、天皇の肖像画を並べている。
明治は「大日本帝国憲法」のもとでつくられた「教育勅語」を、修身・道徳の規範として美化し、昭和の天皇については「なぜ国力で圧倒的に勝るアメリカと戦争を始めたのか」「なぜもっと早く戦争をやめられなかったのか」という過ちを振り返るのではなく、「ポツダム宣言を受け入れた」と美化する。
最後の章「現代」では、戦後憲法を「大日本帝国憲法改正」とし、「民主主義的傾向の復活」としている。大日本帝国憲法の時代、どこに民主主義があったのか教えてほしいものだ。令和書籍の「国史」に全編に流れているのは、要するに「日本は神の国」であり「万世一系の天皇の統治する国」「八紘一宇で国を守れ」という徹頭徹尾、天皇家の宗教と天皇家を礼賛する教科書だ。とんでもない教科書である。
文科省の教科書検定者が育鵬社(八木秀次、百地章ら)、自由社(西尾幹二・藤岡信勝)の「自由主義史観」の歴史教科書に加え、令和書籍の「国史」を検定教科書としたことは、重大な問題と言わなければならない。(小林嘉直)
(注)「日本の侵略戦争を反省する記述からの自由」という意味。
