
斎藤元彦兵庫県知事に対する百条委員会に全国の注目が集まっている。西播磨県民局長(故人)は、斎藤知事らの「公職選挙法・地方公務員法違反」「贈収賄」「公金横領・公費の違法支出」「暴行罪・傷害罪」などの7点を内部告発したが、斎藤知事はじめ県幹部らは、「事実無根」「嘘八百」「公益通報に該当しない」として、局長の「解任、退職取消し、懲戒処分」を強行した。告発内容の重大性もさることながら、知事らが公益通報者保護法と制度を無視し、破壊したことはさらに重大である。
公益通報者保護法では、通報先として①事業者内部、②権限を有する行政機関、③その他外部通報先が規定されている。局長は報道機関、県警、県議に通報しており、公益通報として保護されなければならない。斎藤知事は公益通報制度を踏みにじり、自らの不正・違法行為のもみ消しを図ったことになる。その罪は極めて重い。
海外では内部告発者をホイッスル・ブロアーと呼ぶ。「警笛を吹く人」という意味だ。米国ではスペースシャトル・チャレンジャー爆発事故(1986年)をきっかけに、民間組織や政府・行政組織内部の不正・違法行為を明らかにする労働者を解雇や減給、不利益扱いから保護する法律ができた。労働法の一種である。この事故では部品会社の技術者が、燃料密封に欠かせない「Оリング」の低温耐性に問題があるため、直前まで中止を訴えていた。ところがNASAがそれを無視して発射を強行したため大惨事となったのだ。
内部告発を「裏切り」「密告」などという偏見や攻撃から守らなければならない。鹿児島県警は、警察官の不祥事や犯罪行為を内部告発した生活安全部長を情報漏洩(ろうえい)で逮捕したばかりか、マスコミへの違法な家宅捜索を行っている。内部告発者を抹殺することで組織の不正・違法行為が大手をふってまかり通ってきた。
ことは兵庫県だけの問題ではない。行政の不正・腐敗を根本から正す努力なくして、民主主義の回復はない。そのためにも、百条委員会は公益通報制度をないがしろにした知事や幹部職員たちを徹底的に追及し、全国の自治体に範を示すべきだ。西播磨県民局長や県民生活部総務課課長の死を無駄にしないために、公益通報を生きた制度にすることが喫緊の課題だ。(啓)
