
9月7日、大阪市内で「大阪・関西万博の最大の問題は防災・安全」と題して学習会が行われた。主催は「カジノはいらん! 住吉の会」。講師の木下功さんは元大阪日日新聞の記者で、万博・カジノの問題点を主に防災面から取り上げて来た。現在はフリーで活動中。8月に出版したばかりの『大阪・関西万博「失敗」の本質』(松本創・編著、ちくま新書)の共著者でもある。
果たして万博は安全に行われるのか。その問題点を取り上げた。
液状化対策なし
まず液状化の問題だ。夢洲のIR(カジノを中心とした統合型リゾート施設)工区では液状化対策工事が行われている。IR(カジノ)事業者によるボーリング調査によって、地震時に地盤が液状化することが分かったからだ。しかし、IR工区の南側にある万博会場予定地ではボーリング調査を行っておらず、液状化対策もしていない。地震の際に、万博会場だけ液状化しないと考えているのだろうか。
避難できるのか
次に災害時の避難対策だ。台風のときは事前に閉園にできるが、一番怖いのは地震だ。発災時に夢洲の外への避難は可能なのか。地震が起きれば地下鉄は停止する。安全確認が済むまで避難には使えない。夢舞大橋と夢咲トンネルは震度6(南海トラフ想定)の地震にも耐えられるというが、地震後に通行するためには安全確認が必要だ。想定では、ピーク時の来場者数22万人のうちの7割(15万人)が会場内に残されるということだが、避難場所はパビリオンと催事場、大屋根リングの下しかない。食糧備蓄は3日間分、60万食である。
2018年6月の大阪北部地震では、大阪メトロは全線で運休した。谷町線、四ツ橋線、長堀鶴見緑地線、今里筋線は2時間ほどで復旧したが、高架区間を持つ中央線は7時間、御堂筋線は13時間、その復旧に要した。
輸送体制も破綻
「2025年日本国際博覧会 来場者輸送対策協議会」が出した「来場者輸送具体方針」(具体方針)でその混雑率が問題となっていたのが大阪メトロ中央線だ。自動車輸送のアクセスは夢舞大橋と夢咲トンネルの二つしかない。そこで渋滞が発生しないように通行量を制限して運行するため、あふれた来場客は大阪メトロ中央線に回される。具体方針の第3版(昨年11月)ですでに中央線の混雑率は140%と予測していたが、第4版(今年7月)では145%に引き上げられた。ピーク時には12万9000人を大阪メトロで運ぶことになっている。
医者はたった3人
会場内の医療体制は、休憩所、トイレなどサービス施設を中心に医療救護施設を計8カ所設置することになっている。診療所が3、応急手当所が5。医者は3人しかいない。これでピーク時22万人の来場者に対応できるのか。持病が悪化した人やけが人を運ぶドクターヘリは大阪府に1機だけ。他に警察が2機、自衛隊に頼んでもせいぜい5~6機だ。大地震で多数のけが人が出たらどうするのか。夢舞大橋と夢咲トンネルは恐らく使えない。ヘリが着地できる場所や救難船が接岸できる桟橋、岸壁を確保できるのか。想像したくはないが、その惨状が目に浮かぶ。
来場者の安全を守る防災計画は万博開催の大前提であり、その信用の根幹にかかわる問題だ。それがこれほどずさんだったとは。「万博は始まる前から失敗している」と痛感した。(堀ちえこ)
