
安心して歩く
介護サービスのなかで大事なもののひとつに「移動支援サービス」があります。障がい福祉のサービスのひとつで、ご本人と一緒に、外を歩く、バスや電車に乗る。何となく横を歩いているだけに見えますが…。
何より、安全にご本人を送り届けることが絶対条件です。これは言うほど簡単ではありません。
例えば、私が担当している自閉スペクトラム症の20代の男性は夏場に歩いて汗をかくと、突然、かゆい部分をこぶしで激しく叩き続けます。知らない人が見るとびっくりするでしょう。彼一人だけだと、それを見た健常者が警察へ通報しかねません。そうなると言葉でコミュニケーションをとれない彼は、警察に連れていかれ、自宅に帰れなくなることも。
でもヘルパーが付いていれば、路上で自分の体を叩き出した彼に、「かゆい? このあたり、それともこっち?」と声をかけ、かゆそうなところをさすってあげられます。そうすればすぐに落ち着きます。このとき大きな声で声かけをするのは、回りの通行人を安心させるためです。
バスに乗るときも、他の乗客とトラブルにならないように、慎重に座席を選びます。「何となく横を歩いている」ように見えながら、様々な気配りが必要とされます。
地域に出ていく
苦労してでも利用者さんと外出をするのは、自宅にこもっていたり、自宅と通所施設の往復だけだったりすると、ストレスがどんどんたまってしまうからです。
自閉スペクトラム症の彼は、外出の移動支援が軌道に乗るまで、自傷行為で両手の指が絆創膏だらけでした。いまはそんなことはありません。
また、彼が今後も同じ地域で暮らしていくためには、地域の人たちに彼のことを知ってもらう必要があります。朝の散歩コースは、地元の小中学生の登校時間と重なっています。子どもたちが、「障がいのある人が身近で街を歩いているのを普通に感じる」ようになってほしい。そう願って、猛暑のこの夏も歩き続けました。(小柳太郎/介護ヘルパー)
