
職場で国民民主党のチラシが配られた。UAゼンセン、電力総連、自動車総連、電気連合が支援するこの党のスローガンは「手取りを増やす」。「減税」「社会保険料の軽減」「生活費引き下げ」と続く。これを見て思い浮かぶ心象世界は「昭和の夢よ、もう一度」だ。
ちなみに最近読んだE・アンデルセンという福祉専門家の著作がとても興味深かった。日本やドイツ、イタリア、スペインなどに共通する福祉レジームの特質は、世帯主である男性稼得者の社会的保護にその焦点を絞っていることだそうだ。正社員とその家族には一定の収入、雇用の安定、低廉な住宅、分厚い年金が保証されるが、介護や育児などのケアワークは無償で家族が担い、これら領域の公的サービスは貧弱なまま放置される。
高度成長期にはそれで社会全体がうまく回っていたが、生産現場の様相が一変し、従来のような第2次産業の仕事が激減する中で旧来の福祉レジームが機能しなくなっている。これまでの延長で各国は、正社員の雇用とその家族の生活を守ることに専念したが、その結果いずれの国でも女性と青年の失業率が高止まりしている。低賃金・非熟練労働はもっぱら女性と青年が担い、母子家庭や若者・女性の単身世帯は福祉システムからほぼ除外されているのだ。
各国の合計特殊出生率はドイツ1・35、イタリア1・21、スペイン1・11、日本1・20(23年)。もはや革命が起きる前に社会が衰滅しそうな勢いだ。カトリックと儒教の違いはあれど、「家族」に特別な意味付与をすることで低賃金労働と無償のケアワークを女性に押し付けた結果、少子化で社会が縮小しているのは日本だけではなかった。
介護や育児などの公的ケアサービスが充実した北欧型の福祉レジームだと少子化はいくらかましなのだそうだが、少なくとも日本のように、男性正社員の世帯主に社会的保護を集中する旧来の福祉レジームを守ろうとすればするほど、少子化が進んでますますシステムが劣化することは確実だ。
正社員世帯主の保護しか眼中にない国民民主党に国政が担えるとは思わないが、自民党を落とすためなら今回はこの党に投票することも仕方のないことなのだろうか。(連合の一組合員)
