「冤罪被害の防止は国の最重要課題」と話す鴨志田祐美さん=10月19日、神戸市内

10月9日、袴田事件の再審無罪判決が確定した。続いて38年前の福井・女子中学生殺害事件の再審が名古屋高裁金沢支部で決定した。一方、無実の石川一雄さんを無期懲役とした狭山事件は、第3次再審請求の提訴から18年、一つの証拠調べも、一人の証人尋問も行われていない。いまだに「開かずの扉」の再審法改正の必要性について、日弁連・再審法改正実現本部長代行の鴨志田祐美弁護士が講演した(10月、神戸市内)。

冤罪は最大の人権侵害である

冤罪は国家による最大の人権侵害であり、その被害防止・救済は国の最重要課題だ。日本では大正時代制定の再審制度が現在も裁判所の裁量で運用されている。海外では冤罪の経験を踏まえ制度改正がすすむが、日本だけが立ち遅れている。
再審とは、確定した裁判に誤りが見つかった場合に「裁判のやり直し」をする手続きのこと。再審請求から再審公判(やり直しの裁判)、再審無罪という流れになる。大正時代の刑訴法規定を踏襲している現行法は、冤罪被害者の救済や適正手続きの保障という観点がないため、実際は「開かずの扉」となっている。
戦後30年間、刑事訴訟法435条6号の「無実を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとき」という条文が「それだけで無罪を証明できる強力な証拠」と解釈されていた。それが1975年の最高裁白鳥決定で「疑わしいときは被告人の利益に」が適用され、「明白性」の判断基準が「新旧全証拠の総合評価」によって判断するとなった。その後、「死刑4再審」である免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件の4人が死刑台から生還した。しかし、それは再審法改正に結びつかなかった。
警察・検察は「有罪方向の証拠のみ」を裁判所に提出し、無罪方向の証拠は出さない。それによって有罪判決が確定する率が高い。弁護人は新証拠(警察・検察が保管している証拠)の開示勧告を裁判所に求めるが、その判断は裁判官(所)の裁量に委ねられる。

来年の国会で法改正を

こうした「裁判官のやる気次第」という「再審格差」の是正には法改正が必要だ。16年の刑訴法の改正では再審での証拠の開示は先送りされた。
再審決定への検察官抗告にも問題がある。再審は再審請求と再審公判の2段階ある。検察は、再審公判で控訴も上告もできる。請求段階で抗告を繰り返す必要はない。袴田事件、日野町事件、大崎事件など即時抗告、特別抗告を繰り返し、再審公判の開始を阻止してきた。日本の再審法のルーツであるドイツでは、1964年、再審開始決定に対する検察官抗告を立法で禁止している。
現行法は、再審請求手続き規定について明文規定がなく、規定の整備が求められる。再審法改正に向けた超党派の国会議員連盟(24年3月発足)は、解散前では350人、全国会議員の49・4%に。404地方議会が再審法改正を求める意見書を採択。25年通常国会には議員立法として法案の上程を実現したい。