10月総選挙は自民・公明両党が衆院の半数を大きく割り込み、無所属を組み入れても過半数には遠い「完全な敗北」に終わった。自公政権が過半数を割ったのは、2009年の民主党政権交代から15年ぶりのことだ。だが、今回は単純な政権交代には至らず、政権の枠組みの行方が見通せない。この国の政治が初めて体験する「未知の領域」に踏み込んだ。
 「政治の混乱」を指摘する人もいるが、新しく生まれ変わる“胎動”が始まったと受け止めるなら、希望も見出せるかもしれない。バブル崩壊とともに訪れた1990年代初めの政治の流動化が30年余にわたって続いたが、本格的に次の時代へ移る転換期に入った選挙結果となった。少数与党になった自公政権は、衆院予算委員長はじめ重要委員会を含む半数近い委員長ポストを立憲など野党に占められ、国会の風景は様変わりすることになった。
 今回の選挙、裏金問題で窮地に立った自民党に厳しい結果が出ることは予想されていたが、野党ばらばらのままで選挙区での劇的な変化を望みにくいことから、石破首相が低めの勝敗ラインとした「自公で過半数」はクリアし、「自民単独過半数割れ」が焦点とみられていた。私もそのように予測、「政権交代」など先の先だと考えていた。「野党が結束し与党に対抗する」体制がないままに「政権交代」を振りかざすより、与野党拮抗(きっこう)した緊張感ある政治の招来が重要だと見ていた。
 ただ自公過半数の壁を突破しなければ、10年続いた「一強」体制を崩すのは難しい。しかし、選挙期間中に刻々と変化し、蓋が開くと、これまでにない政治の風景が始まっていた。この新しい状況、冒頭に書いたように「政治の混乱」を指摘する人もいるが、「ようやく新しく生まれ変わる“胎動”が始まった」と受け止めた。30余年続いた政治の流動化が、本格的に新しい時代に入る転換期に入ったという期待だった。
 11月12日「朝日」朝刊に掲載された政治学者、御厨貴さん(みくりや・たかし)のインタビュー記事を読み、はたと膝を打った。日本現代政治史の顕学である同氏は、「1955年の保守合同で自民党を結党した時以来の、大きな変化の時を迎えている。日本の政治が創造的に変わるチャンスが訪れた」と、この結果の持つ歴史的な意味を語っていた。
 さらに「これから始まるのは、誰も経験したことのない新しい政治の手法、秩序、体制の創造過程だと見つめるべきだ」という。メディアでいま横行している「石破政権は短命」とか、「国民民主は与野党のはざまで埋没する」などという冷笑的な見方を戒め、「新しい政治秩序づくりに向けすべての政党、政治家にとって“よーい、ドン”状態になった」と述べ、同時に「市民にとっても、政治が国民にとって近い存在になるのか、遠い存在になってしまうのか、問われる瞬間を迎えている」と喝破している。これから展開される政治の動きを、戦後80年の時間軸でとらえると異なる風景が見えてくる。
(市民まちづくり研究所、市民自治あかし代表 松本 誠)