「経団連提言」を批判する岩佐卓也・専修大教授=11月8日、神戸市内

日本経済団体連合会(経団連)は今年1月、「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」を公表し、「労働時間制のデロゲーション(適用除外)の拡大」「労使協創協議制(選択制)」などを打ち出した。これにたいして岩佐卓也・専修大教授(労使関係・労働政策)は講演(11月8日、神戸市内)で「提言の労使自治は使用者側に好都合で、デロゲーション【解説】の狙いは労働時間規制の無効化だ」と批判した。

闘わない労働組合をどう変えていくか
岩佐卓也さん

提言の目的は、一言でいって「労働基準法制による画一的規制の弊害を最低限にしていくこと」である。具体的な見直し事項として、①過半数労働組合がある企業は過半数労組との労使協定で労働時間規制のデロゲーションを拡大する。裁量労働制、高度プロフェッショナル制度(高プロ)の対象業務の拡大など。②過半数労働組合がない企業は労使協創協議制(選択制)を創設し、就業規則の合理性推定や労働時間のデロゲーションを行う。③就業規制作成や労使協定の締結を事業場単位から企業単位に変更するなどの3項目である。
こうした提言の内容は「労使自治は経営の障害にならず、スト権を行使されることもない」という経団連の自信の表れだ。

厚労省が研究会発足

この提言を受け、厚労省で労働基準関係法制研究会がつくられ、「労働時間制度・労基法上の事業、労働者概念、労使コミュニケーション」などが議論されている。今年中にも答申が出るかもしれない。割増賃金の非適用(不払)、テレワークへの事業場外みなし労働時間の適用、法定休日の4週4休から1週1休へ、勤務間インターバル制度などが検討されている。

ドイツの横断的労働協約

ドイツでも労働時間をめぐるデロゲーションが問題になっている。日本では労働時間を法律で規定しているのに対して、ドイツでは労働協約で個々の労働時間が定められている。
例えば、IGメタル(ドイツ最大の産業別労働組合)などが、使用者団体と週35時間の協約を結んでいる。ドイツではこうした横断的労働協約によって企業間の競争を排除し、利益を上げている企業も、上げていない企業も、一律に労働協約が適用されてきた。
そのドイツにおいても、デロゲーションの拡大によって、企業、事業所の事情を考慮しない「硬い」ルールから、「柔らかい」ルールに変わりつつある。企業の「さしせまる倒産の危機」の場合には、デロゲーションを認める方向になっている。ジーメンス社(携帯電話製造)の協約デロゲーションでは、週35時間から週40時間へ賃金補償を伴わない労働時間の延長(実質賃下げ)や休暇手当・クリスマス手当の廃止が提案されている。
IGメタルのペータース委員長は「頷(うなず)いてばかりいると、首が自然と落ちる」と述べ、IGメタルによる検証と対案の提示、事業所レベルでの組織力強化、「拠点」事業所のみに頼らない組織づくりをめざしている。こうした海外の事例を参考にしながら、「闘わない労働組合」という状況をどう変えていくのかを考えなければならない。
【解説】デロゲーションとは法律の有効性を部分的に減じること。労働基準法上のデロゲーションとして変形労働時間制、時間外労働、裁量労働制、フレックスタイム制、高プロなどがある。例えば労使で「36協定」を結べば、時間外労働を行うことができる。