
11月23日名古屋市内の労働会館東館ホールに約50名が集り、関生京都3事件の公判報告&パネルディスカッションが行われました。この事件で懲役10年を求刑され来年2月26日に判決を迎える湯川裕司関西生コン支部委員長は裁判所や勾留の実体験、被害者とされた京都生コン協組理事長(当時)との関係を率直に語り、会場からは「どうしてこれが犯罪になるのか?」という質問が相次ぎました。
冒頭、『関生弾圧を許さない東海の会』の石田共同代表が挨拶、続いて京都事件を担当している片田真志弁護士からパワーポイントを用いた公判報告がありました。
片田弁護士は「工場が乱立して過当競争によるダンピングに陥っていた生コン業界に通産省も製造設備の廃棄と集約化を提案、しかし、業者が主導する集約化事業は成功せず、連帯労組がセメントメーカーとゼネコンに対抗する産業政策運動として生コン協同組合と連携してこれを進めることになった」と事件の背景を説明、そして各事件の起訴内容を紹介、それに対して実際の紛争の実態と本質を明らかにし、批判しました。
・ベストライナー事件は京都協組(当時F理事長)が組合のない会社として作った輸送会社に連帯ユニオンが結成され、この会社を解散したことに対して解決金1億5000万円を支払わせたことを恐喝とされた事件。金銭決着の提案は暴力団を使った京都協組から行われ、組合はそれに加えて雇用確保を争ったもの。
・近畿生コン事件は組合と協調路線を取る久貝氏の理事長を交代した際、近畿生コンが突然破産申請、連帯ユニオンは労働債権を担保に会社を占拠して工場がアウト業者に落札されることを阻止、京都協組が占拠費用など6000万円の清算金を支払ったことを恐喝とされたもの。京都協組は連帯ユニオンとの協調路線に転換して生コンの値戻しに成功、久貝理事長は「生コンが3000円上がると、年間30億円の利益が増える」と証言している。
・加茂生コン事件は、組合結成があった加茂生コンが廃業する際、①組合が就労証明書の発行や②プラント解体と洛南協組へのミキサー引き渡しを洛南協が要求した行為について強要未遂・恐喝未遂とされた事件で、①は現場の組合員に無罪判決も出ており、後者は洛南協の独自の利害に基づくものであった。
片田弁護士は「異様な捜査経過」として、京都協組理事長の久貝氏を最初は湯川氏と共謀した「被疑者」として立件しながら、後に久貝氏を「被害者」として立証の最重要証人とすることになった点を指摘した。また、どの事件も直接の「脅迫」行為がなく、また、実力を伴う闘争が行われていないことには争いがない。検察側は「かねてから被害者が組合を恐怖し、要求に応じるしかなかった」と証言させている、労働法の無理解がある、と指摘しました。
パネルディスカッションに入り、『東海の会』共同代表の中谷雄二弁護士は、まず、自ら弁護士を勤めた9月13日の大垣警察市民監視違憲訴訟名古屋高裁判決を紹介し、「警察に対する法的統制がない国が法治国家と言えるのか」と問題提起しました。次にILO87号条約に照らして憲法28条と憲法21条の結社の自由とは一体であり、労働組合法2条の規定を待つことなく労働三権は使用者が受忍し、国家が介入してはならないものである、としました。そして関生事件はもっと注目されるべきで、そうなっていないのは労働組合のない社会を異常と思わない社会意識に支えられていると指摘しました。
同じく『東海の会』共同代表の熊沢誠名誉教授は、自身は大津1次事件の控訴審に注目しているといい、関生事件では4件の無罪判決がでているが、本丸である「直接労使関係にない企業へ介入する行為は認めない」とする司法権力の意志は固いのではないかと述べました。連帯ユニオンが組合排除を主導する大阪広域生コン協組に対して不当労働行為の損害賠償を請求した事件で大阪地裁がそれを早々と棄却したことにもそれは示されている、と述べました。このことは産別労組への攻撃の留まらず、企業内組合も、非組合員・非正規労働者・下請け労働者の問題には関与できないとするものであるとも指摘しました。
続いて湯川委員長が発言、「労働者は一人一人では強くない、今回の弾圧は節度も常識もない、組合員は『自分は大丈夫だ』と思いたければ組合を脱退するしかないところに追い詰められた。闘い続けるためには自分を信じるしかなかった。」とし、さらに「弾圧で学ばされることもあった。弾圧までは自分たちの評価など無頓着だった。弾圧を受けて、組織をどう拡大していこうかと考える時、弾圧を許さないために他の団体の労働運動や市民運動と連携を図らないといけないと思うようになった」としました。
「裁判官は無知と偏見で成り立っている?」
片田弁護士は「私は10年間ほど裁判官をやり、辞める前は刑事裁判官をしていた。刑事裁判官は労働運動をよく知らないし、知識もない。労働者を虐めよう、弾圧に加担しようと思ってはおらず、法に従って、と考えるが、無知に基づく偏見があり、実態を見てもらうのが大事と思う。刑事裁判の現状は事実認定が殆どで、考え方を問われるケースはほとんどない。ところが関生事件では、全部行為が録画されている加茂生コン事件や和歌山協事件で、ある裁判官たちはこれを有罪と考え、ある裁判官たちは無罪と判断した。主観的な受け止めがダイレクトに出ている。裁判官たちに自らが依拠しているものを立ち止まって見直して欲しく、京都事件は無罪と考え弁論を行っている」と述べました。
湯川委員長は、「何度も逮捕されて回数さえ覚えていない。勾留開示公判前に休憩所で待機があり、たばこをふかしているおっさんがいた。裁判が始まるとその人が裁判官だった。何度か開示公判で会い、一度、あなたは労働法を知っているのですか、と問うと、労働法は知らないと答えた。また、ある時は、何で勾留されなければならないのですかと言うと、私もつらいところだ、と言う。辛いのはあなたではないでしょ。次は新卒のような女性の裁判官に替わり、勾留理由開示公判で、勾留理由は何ですかと聞くと、答えられないと言った。裁判官は無知と偏見で成り立っているのか、と思った」と勾留の実体験を披歴しました。
熊沢さんは「団塊ジュニアの世代のインテリは成功者で能力主義の考えがある。恵まれない環境は自己責任だとする侮辱的な意識がある」と指摘しました。
中谷弁護士は、「裁判官は主観的にはまじめな人が多いが、裁判所が憲法の保障機関だという意識が低い。気の毒な人を助けようというようなことは時にあるが、現にある法律を正しく解釈するという意識が一般的だ。故奥平康弘氏はこれを、法解釈に終始して憲法を忘れていると批判していた。」と述べました。
なんでこれが犯罪?『被害者』にされた者も無罪を望む
会場から質問用紙が集められたが、「何でこれが犯罪になるのか?」という質問が複数寄せられた。
湯川委員長は「刑事裁判は検察のストーリーに事実が切り取られて当て嵌められていく。暴力団を使って組合を脅してきた側が組合を恐れていたという。まるで事実とは違う。パワハラ・セクハラを辞めない企業をストライキで止め、多大な損害を与えたこともあったが、そういうことは事件にもされていない。関生の運動が警察を支える勢力に不都合なものになったのだろう」と述べ、中谷弁護士は「記者会見の後、朝日新聞の記者が関生は『反社』だから記事にできませんよ、と言ってきた。検察のストーリーは関生が『反社』だという前提で作られ、裁判所も組合員を『組員』と何度も間違えていたという」と指摘、片田弁護士は「労組が解決金を支払わせても犯罪にならない、検察のストーリーは『反社』の関生が因縁をつけて金を撒き上げているとするもの」と述べました。
質問は京都事件の被害者とされた京都協組元理事長の久貝氏と湯川委員長の関係に及び、湯川委員長は「社長と社員の関係で、喧嘩もしたけどムチャクチャ仲が良かった。労使とも生コン業界を再建しなければ生きていけなかった。労使が協調することで生コンを値戻しし、春闘で5万円の昇給を勝ち取ったこともあった。久貝さんは魅力的な人で、自分を犠牲にしても他の業者が利益を得るようにした。権力の弾圧で『被害者』と『加害者』に別れてしまったが、自分の会社を守るために仕方なかったのだろう。事件が解決したらもう一回一緒にやっていこうと思っていたが、もう亡くなったしまった」と述べました。
労働組合にもう一度スポットライトが当たる時代に
最後に湯川委員長は「労働組合はよろず屋のようなもの、セクハラや心を患った人の相談が来る。社会を変えていくためには労働者が権利主張できることは不可欠であるはずだ。労働組合にもう一度スポットライトが当たる時代を作りだそう」と結び、主催者の柿山事務局長が「今日のパネルディスカッションは大正解、また、関生組合員との直の交流を続けていきたい」と結びました。
この日は故・高英男関生支部副委員長の11回目の命日、関生支部を体現した闘士であった高副委員長ならこの集会の発言をどう聞いただろうか。(愛知連帯ユニオン)
