
今回の兵庫県知事選、立花孝志が「斉藤有罪」から「斎藤えん罪」に、どのように“どんでん返し”をやったのか。立花は、元県民局長の押収されたパソコン内のプライベート部分・女性問題を「マスコミや百条委・奥谷委員長が隠蔽」「不倫日記」と騒ぎ立て、「勝手に死んだ」「斎藤いじめ」「マスメディアは信用ならない」と訴えた。
立花はユーチューブでで「斎藤援護」動画を100本以上投稿、再生回数は1500万回、斎藤ユーチューブ再生回数119万回の12倍。このSNSの席巻もさることながら、その「立証」の展開は「凄い迫力」だった(https://www.youtube.com/watch?v=VC_Y_dH4dfk今井一氏・本間龍氏=知事選についての対談)。
「騙された」では、すまない
長年、労働運動を共にしてきた友人も「共感」してしまった。多くの良識ある人々が「心」を掴まれた。単純に「騙された」などと規定できない。「心」を掴まれた人々の思いの基底に、何を見るのかが明らかにされないといけない(参考:ナチスドイツに心酔した民衆の心情を分析した『自由からの逃走』/エーリヒ・フロム)。
立花が、有権者を「バカ(ママ)」呼ばわりした対談(以下)。
https://x.com/fujisan_Ed/status/1858120332940386321?t=WXNIvKoNt0Fd_TStqcjiYQ&s=06)
聞くに堪えない内容だが、これを見て斎藤に投票した人は、総括してほしい。立花の狙い(立花の獲得目標は、斎藤当選ではなく「既存メディアによる情報発信の転覆にある」との見方もある)や、人々の意識の基底にあるものをしっかり見ないと、これだけでは、<ひっくり返し>の一面だけかと。だからといって立花と同じ土俵で議論するのもいかがなものかと思う。「茶番だ」と一言での批判も、レッテル貼り」だけでは自らにも跳ね返ってくる。れいわ支持者の過半数が「斎藤に投票した」事実も、見ておく必要がある。
立花発言 「もっと、言い方、はっきり言うけれど、バカな人たちをどうやって上手く利用するか。ホリエモンがそういうことを言っている。最近、俺もそうやなって思っててね。犬とか猫とかと一緒なん。そういう人たちにも有権者として1票を託している制度が、ぼくは今の民主主義のやり方、1人1票というやり方は全然違うと思っているけれども、これ違うと言っても、それは批判としてもこの状態で選挙に勝たなきゃいけない。だからバカに入れてもらう方法を考えるのが本当に賢い人かなと思って、ガーシーかと話しているのはね。本当にこの国の国民って、政治の問題、ウクライナの戦争の問題とかよりも、芸能人の下ネタが好きなん。なるほどなと。そうするとね。それを『ああ、そんなくだらない人間だ』というような批判するよりも、そこはやっぱり降りていくってか、そこに首を突っ込むしかないのよ。この人たちに票をもらわないといけない。それが結局は、このバカな人たちを助けることでもあるって、そこだよね」。(録音の起こし)
公選法違反は明らか
佐藤章氏(元・朝日新聞、ジャーナリスト)のユーチューブ。繰り返しが多く見づらいが、「立花の選挙は、公職選挙法違反」としている。
https://youtu.be/ZiPtieGndOA?si=Kypjh_IwcbBXCjzc
同じ選挙区に立候補し、他候補を応援するのは公正性・平等性に反し、公職選挙法141条違反になる(1人の候補が自分の当選ではなく他候補を支援するなら、複数の選挙カーや演説行為ができ、ビラ配布やポスター添付なども倍増できる)と、総務省選挙課の判断を紹介している。
刑事告発がなされた
市民オンブズマンが、阪神優勝パレードの資金キックバック問題で兵庫県警に刑事告発しているが、新たに上脇博之・神戸学院大学教授と郷原信郎・弁護士が斎藤知事を公職選挙法違反で刑事告発した。
斎藤側が金を払い、折田楓が契約を受け選挙のSNSをプロデュースしたことが買収にあたる、かつ兵庫県の仕事をしている企業への利益供与にあたり、違法そのもの。公選法違反、刑事事件にならないとおかしい。斎藤の失職までに発展する可能性もある。全社員がボランティアとしても、「献金」にあたるなど、種々の違法根拠が明らかに。
https://x.com/shirasaka_k/status/1859865302147924112?t=FF0cCn1g_I_cjEdrvf3KHQ&s=06
検事時代に公職選挙法違反を数多く扱ってきた若狭勝弁護士も、斎藤氏とコンサルティング会社の活動は、「運動買収、有料ネット広告禁止」違反の疑いが濃いと言う。公開されたネット・戦略が、基本的に「斎藤当選目的の選挙運動に当たる」としている。
https://youtu.be/0X5eu9QZpWg?si=9YtrCb-dxOS_ElWX
百条委員会の質疑
10月24日、25日の百条委員会(非公開だった)のビデオが、兵庫県のホームページで投開票後に公開された。
https://www.youtube.com/watch?v=9PhjYSqR_Wg(10月24日)
https://www.youtube.com/watch?v=CfFT8lotlYM(10月25日)
後者は、井ノ元知明・元総務部長(牛タンクラブ4人の1人)の証言、「公益通報の判断を待って処分すべき」との進言に対し「知事から『風向きを変えたい』と意見があり処分を協議した」とある。公益通報者保護法を意識的に踏みにじった斎藤の言動が明らかになっている。また「(知事を)辞めて欲しい」との進言に、「『メンタルケアに行ったら』と真顔で言われた」と…。
組織犯罪や権力犯罪を告発する公益通報者保護法の重要性
そもそも「斎藤問題」は、メディアが報じる「パワハラ」などが主要な問題ではなく、会社組織や行政権力組織の違法行為や、権力犯罪を正す公益通報者保護法(制度)を破壊した行為が最も許されない(キックバックは背任の犯罪行為、相当に重要)。鹿児島県警の犯罪行為を隠蔽し、生活部長を不当逮捕したり、情報源を掴むためにメディアを違法に家宅捜索したり。こういうことを全国でくり返し、許すのか否かの問題でもある。ここを絶対に外してはならない。
百条委員会が全国に範を示さなければ、再選された知事が事をひねり潰しかねない。
問題は重層的だが、「事実が立証されていない」SNSに、なぜ多くの有権者が「心」を掴まれてしまうのか。その基底に何があるのか。地元紙神戸新聞は「SNSの拡散力選挙戦一変」と見出しを打った。SNSは一つのツールだが、何が拡散された、されるのか。それを解明しなければ、同じことが繰り返されるのではないか。
来年の都議選や参院選が「荒れる」と言われている。これまで選挙、投票に行かなかった人たちが投票率約15%増で投票した。斉藤票は前回比25万票を増やし、当初の「追う斎藤」からひっくり返った。「選挙に行こう」運動では、無力だったとも思われる。

<私の意見>
「大手マスメディアが本当のことを報道しない」「政府は必ず嘘をつく」とは、昨今の高物価、2年近い実質賃金の低下により、生活に苦しむ市民、労働者層、将来を展望できない若者・学生には、ほぼ常識になっている。いじめやパワハラも職場や学校、地域社会に蔓延している。
市民・学生・労働者は、そういう側に立つ「既得権益者」たちの社会を変えたかったのではないのか。「全てを敵にし、叩かれている斎藤」が、たった1人で出直して、各駅頭で平身低頭するその姿に、どのように自らを「2重写し」にしたかは定かではないが、そこに、<社会変革><孤立><ひっくり返し>の思いに、<力>と<論理>を与えたのが、立花ではなかったのか。
彼ら彼女らにとって、稲村候補も「既得権益擁護」であり、22市町首長の「稲村支持」はまさしく「既得権益擁護者」なのだろう。
その構造をしっかりと見て対象化しなければ、同じことが繰り返されそうに思う。
*稲村陣営の力不足の問題は、常に選挙につきものであるのかと思うし、いろいろ指摘されていることは当たっているだろう。
市民・有権者の協働・共同
斎藤の公約実現率「98・8%」との宣伝はデタラメ。実現率ではなく、着手率であることは、県も斎藤も修正しており(実現率27%の報道も)、「留学生らを対象にした奨学金など」の約4割削減(1億4700万円)や、削った福祉関係費など、正しく明らかにする調査がなかった。フェイク判定もかろうじて一部で行われたが、立花にかき消されたと言ってよい。マスメディアが政策と候補者のアンケート結果を載せたが、斎藤県政の3年間を真剣に問い直す報道はなかったようだ。
こういう領域を、市民側が真剣に取り組むことが大切だ。情勢がどう動くか見極めながら、何を教訓とするか。市民・有権者がどのように社会を変えていくかなど、議論し協動・共同していきたい。(石田)
