中学校教科書採択全国報告集2024

 1月13日(日)に、国労大阪会館(大阪市内)で開催された「戦後80年 戦争へとむかう教育を許さない!」と題する中学校教科書採択全国報告集会(主催「戦争教科書はいらない!大阪連絡会」)に参加した。

運動の力で育鵬社はさらに減少
 初めに、「子どもたちに渡すな!危ない教科書の会」の伊賀正浩さんが、「運動の力で育鵬社はさらに減少!消滅まであと一息!」と題して報告した。
 (数値やグラフを示して)、育鵬社「歴史」のシェア率が全国で1・1%から0・5%に減少し、育鵬社採択県も5県から3県に減少、大阪ではついに育鵬社をゼロに追い込んだ。
 2011年に、東大阪市で初めて「公民教科書」で育鵬社が採択され、さらに2015年には大阪市をはじめ大阪の5地域で採択された。この事態に危機感を抱き、教科書展示アンケート記入や、各市教育委員会への申し入れ、教科書採択会議への傍聴などの運動を強めてきた。その結果として、2020年には採択率を引き下げた。
 採択の透明性や民主化を求める運動を継続してやってきたことが、この間の成果に結びついている。教科書の批判と同時に、採択制度の民主化を求める運動をこれからも続けていく必要がある。

戦争準備の教科書
 続いて、「戦後80年、戦争準備を加速させる日本の中学校教科書のリアル」と題して、相可(おおか)文代さんが提起した。
 令和書籍「国史」の検定合格の衝撃が大きかった。内容は天皇の活躍物語であり、侵略戦争と植民地支配の正当化丸出しのとんでもないものを合格させた。編集した竹田恒泰(つねやす)によれば、「政治家・官僚・経営者・学者など、将来社会の指導層になりそうな有名私立中学校の生徒を的に絞って作成した」という。恐るべきエリート主義、選民主義だ。
 育鵬社、自由社の「公民教科書」では、日本国憲法の三原則ではなく、「国民主権より天皇重視、基本的人権の尊重より権利の制限、平和主義より国防重視」が顕著になっている。「平和主義」対「国防重視」、「個人の尊厳」対「家族の一体化」、「多様な性の肯定」対「完全無視」など、価値観の分裂と衝突を反映している。
 災害救助を行なう自衛隊の写真を掲載して、「国民を守るレスキュー隊」のような印象を与えつつ、自衛隊の最新兵器の写真も多数掲載して「軍隊」としての側面を強く押し出している。男女平等の実現の例として、「航空自衛隊初の女性戦闘機パイロット」を紹介している。
 岸田政権下で、「敵基地攻撃能力」や「5年間で防衛費1・5倍(43兆円)」を閣議決定し、「台湾有事」を口実に自衛隊基地の配備強化が進められ、自衛隊の実践訓練も激しくなり、事故も多発している。しかし、自衛隊の深刻な隊員不足の中で、教育を通じた「愛国兵士」作りが進められようとしている。

全教科書を対象にする運動へ
 各地からの報告の後、上杉聡さんから、「23年間の教科書運動と今後の課題」と題する講演があった。
 これから日本を背負っていく子どもたちをどのように教育するのか。教科書会社がもっと自由に創意工夫をして、前向きで積極的な内容を出せるような教科書の制度を作るべきだ。
 戦後の民主教育の中で、「そんなに悪いことはできない」というシステムができている。このシステムを最大限利用して23年間たたかってきた。その上で、これからの運動の比重は、育鵬社などを主敵とするところから、全教科書を対象に移行すべきではないか。育鵬社などを私たちが相手にしている間に、文科省は検定の力を強め、教科書の全体的な悪化を進めている。
 私たちが求める教科書のあるべき姿とは、事実に即して虚偽を述べず、子どもたちが主体的で批判的な判断力と実行力を養い、平和と人権と豊かな文化を育て、全地球的な環境危機と災害に対応するものであってほしい。
 そのために、全教科書を対象に分野別に評価して、全教科書を採点して、順位をつけ、良い教科書を推していく。つまり、良い教科書を採択させることで、悪い教科書をつぶしていく。私たちの意向を無視して教科書会社が執筆できないようにする。専門家も交え学問的に検討して、全国運動としてやっていく。ぜひ検討していこう。(佐野裕子)