「女たちがいなくなった日 “男女平等先進国”アイスランドの原点」BS世界のドキュメンタリー原題:The Day Iceland Stood Still(米/アイスランド 2024年)

毎月、大阪市内で行われている「ドキュメンタリーを視て語るつどい」で『女たちがいなくなった日〝男女平等先進国〟アイスランドの原点』を見た(4月7日)。
ジェンダーギャップ指数が世界118位の日本から見れば、アイスランドをはじめ北欧の女性の現状はうらやましい限りだが、最初からそうだったわけではない。やはり長い闘いの歴史によって勝ちとられた地平なのだ。大きな契機となったのは1975年10がつ24日に男女平等賃金を求めて「女性の休日」と名付けられたストライキだった。このストには女性人口の9割以上が仕事を放棄して参加した。
特筆すべきことは、職場の仕事だけでなく、できうる限り家事や育児も放棄した。「朝食やお弁当の準備、親戚の誕生日を覚えていること、義母へのプレゼント、子どもの歯医者の予約 ……」など、男性が気づきもしない煩雑だがデリケートなさまざまな「無償労働」を放棄し、夫や父親に担わせたのだ。ビデオでは当時ストに参加した女性たちの若かった50年前の姿と、高齢となった現在の姿が交互に映し出される。映像に挿入されるアニメーションが的確な解説になっている。
私がこのビデオを見て一番ショックだったのは、50年前、6歳の子どもが大人から「パパとママは何をしているの?」と質問されたとき、「パパは働きに行っている。ママは家で何もしていない」と無邪気に答えるシーンだ。家事や育児は? 時に介護は? わずか6歳の子どもにして、既にそれらの無償労働は「何もしていない」=価値のないものという認識が刷り込まれているのだ。「きみのオムツは誰が替えていたの?」と問い詰めたくなるが、子どもは社会の反映である。そうした認識は成長と共に、「女性は男性に養われるもの」として思想化していく。よしんば女性が就労していたとしても、それは補助労働であり、「お手伝い」と見なされる。日本では結婚後も働き続けている女性に対して、「女のわがまま」「亭主が認めてやっているから」と言われていたものだ。
ビデオの話に戻るが、ベルトコンベアーで流れてくる魚をものすごいスピードで骨をとったり、さばいたりする労働が映し出される。男性も女性も能力に差はないが、賃金の差は歴然としている。大人が少女に尋ねる。「大きくなったら何になりたい?」ある少女は「船長」と答え、別のある少女は「弁護士」と答える。これを聞いた大人たちは「女にはムリだよ」と一笑に付す。
1975年の「女性の休日」ストライキは世界的な注目を集め、1985年、2005年、2010年、2016年、2018年と続けられた。そしてアイスランドは男女格差を90%以上解消した世界で唯一の国となった。少女たちの夢はどうなったか。
「船長」と答えた少女は、アイスランドで初めての女性大統領になった。彼女はヨーロッパ初めての女性国家元首でもある。「弁護士」と答えた少女は、最高裁判所の裁判官になった。こうした例はエリートだけにかぎられた話ではない。調べてみると、アイスランドでは2018年以降、従業員25人以上の企業に対して、男女同一賃金を支払っていることを証明する法的義務が課せられた。また、男女ともに育児休暇を取得する権利があり、6カ月間賃金の80%が支給される。このように全労働者を対象に男女格差を解消する労働条件の向上を勝ちとっている。
以上、アイスランドの女性たちの闘いを紹介してきたが、問題も残されている。移民問題である。アイスランドの女性労働者の22%が移民であるが、賃金をはじめとした差別待遇は顕著だ。ややもすればフェミニズム運動は「白人という特権」にとどまりがちだが、それを乗り越えて、移民労働者との連帯を追求してほしい。そして、歩みをとめることなく、世界の女性たちの先頭を切って、「ガラスの天井」を突き破ってほしい。(想田ひろこ)