
インターネットには、アルゴリズム(処理手順)がユーザーの興味や検索傾向を振り分けるフィルタリング機能があり、自分の意見と合った情報だけが提供される。異なる意見に触れる機会が奪われ、自分の意見が絶対に正しいという幻想に陥り、異なる意見に対して激しい怒りの感情(劣情)を引き出し(フィルターバブル現象や、エコーチェンバー現象)、冷静な議論の場として全く適さないといわれる。
ネット社会の加速度
この傾向がネットでのいじめ、脅迫、攻撃を加速し、社会の分断対立を大きく促進している。兵庫知事選で立花孝志による、法の隙間を巧妙に突いたネットを使う選挙戦術は、斎藤再選はあり得ないかに見えた状況をひっくり返した。虚偽の攻撃的なユーチューブは、さらに「お金を稼ぐ目的」のユーチューバーらにより、編集・デフォルメ・拡散され1500万回も再生された。
若者の大半がネットを情報源としている。エビデンス(証拠の事実)確認が必要な事実情報の拡散スピードを遥かに超えるスピードで、フェイク情報が拡散していく。そうかといっても、ネットは一つのツール(道具)であり、使い方しだいではとても役立つツールであり、いまや生活や勉学の一部である。
Joinシステム
台湾のオードリー・タンらが生み出した「Joinシステム」は、市民が政治について自由に意見表明できるプラットフォームである。誰でも電子請願ができ、発案から60日以内に5000人の市民の賛同署名が集まれば、政府はかならず議題にとりあげ2カ月以内に担当部局が検討結果を発表しなければならない。実際例として16歳の女子高校生が「プラスチック・ストローの全面使用禁止の請願」を行い、あっと言う間に賛同が5000人を超え、環境保護署(環境省)はじめ関係者がかかわり、最終的に「段階的使用禁止」の政策が打ち出されたというケースが紹介される。
オンライン上で合意形成を可視化する新しい技術、「Polis(ポリス)」には個人攻撃を排し安心して意見を投稿できるように、返信機能がなく(「賛成」「反対」「パス・不確定」の3択)のみ。AI(人工知能)が、リアルタイムでオピニオンマップを作り出し、自分の考えと同じグループ上に自分のアイコンが位置づけられる。リアルタイムで、自分の意見がどこにあるかわかる。同時に、他グループとの相違点や合意点もわかり、それによってさらに説得的意見の投稿が可能になる。
その作業を数日繰り返すと、賛成派と反対派の双方が受け入れ可能な合意点が見えてくるという。安心して冷静に議論できる空間(公共)をつくりだすために、叡智を出し合う並外れた努力に驚かされる。
量と質が飛躍的に確保
その他、さまざま斬新な技術が編み出され、確実に市民の政治参加の機会が増え、「4年に1度の選挙」のみでない政治風土が生まれ、国政選挙の投票率は75%(日本は50%)と、非常に高い。長期にわたる、国民党政権による戒厳令が解除されたのは1987年。民主主義の爆発と言ってよい。
ギリシャの直接民主主義の実践は、市民規模が比較的少人数でのみ有効とされる。デジタル技術の発展によりコミュニケーションの量と質が飛躍的に確保され、主体的、自主的に発信する市民が一種の「(政治的)代表」として活動する場は、代議制民主主義を確実に補完している。それを、タンは「デジタル民主主義」と規定する。(啓)
