ブラジル館の火災を伝えるNHKニュース

 4月4日夜、大阪万博のブラジル館で火災があり、天井材と配線が燃えたという。初期消火で消し止められ、大事には至らなかったそうだが、なぜこんなことが起きるのか考えてみた。
 漏電や配線ショートなどを思い浮かべる人も多いと思うが、このケースでは考えづらい。通常の漏電なら漏れ電流わずか30ミリアンペアで漏電ブレーカーが作動する。火を吹くレベルの電流が漏れれば瞬時にブレーカーが作動して全館が停電してしまうのだ。また、電線が接触してショートした場合は数千、数万アンペアの電流が流れるため、「ボン」という爆発音とともに瞬時にブレーカーが作動して停電する。停電でパニックになることはあっても、これが原因で火災になった事例は私の記憶にない。
 天井で火を吹いた、と聞いた時、私が思い浮かべたのは差し込み型コネクタ、通称「ワゴ」である。
 天井裏には照明の配線がクモの巣のようにはい回っている。構造としては、ブレーカーから幹線となる配線ケーブルを引っ張り、幹線から照明に向かって何本もの支線を分岐させる。分岐点で何本ものケーブルをジョイントし、接続するわけだが、その方法としては、㈰リングスリーブという金属の輪っかに電線を束ね、圧着ペンチを用いて物理的に接続する「圧着」という方法と、㈪「ワゴ」と呼ばれるコネクタに電線を差し込んで接続する方法の、ふた通りのやり方がある。㈰圧着する方が接点は長期間安定するが、圧着ペンチを使ったり、絶縁テープを巻いて保護したり、大変手間がかかる。㈪施工としてはワゴを使う方法が圧倒的に早いが、やり方を間違うと危険を伴う。ワゴはプラスチックの被覆の中に金属クリップのようなものが入っていて、これに何本もの電線を噛ませる構造になっている。だが、サイズの違う電線を噛ませると、小さい方の電線が密着せずに隙間ができ、ここからたえず火花が飛び散って火災の原因になるのだ。
 例えば電気スタンドや扇風機の電源を入れたままコンセントを差せば、パチッと火花が散るのは誰しも経験したことがあると思う。同じような原理で、接触するかしないかぎりぎりの接点に電流が流れるとぱちぱち火花が出てしまう。私も電気の修理で天井裏にもぐった時、真っ暗な天井の中でサイズの違う電線を組み合わせたワゴからぱちぱちと明るい火花が飛び散っているのを見たことがある。ここで流れる電流は照明に流れる規格内の電流値だから、ブレーカーが落ちることもなく、ひたすら火花を噴き続けるのだ。だからワゴを使う時は違うサイズの電線を一緒にするな、と厳しく指導されるのだが、そうすると施工予算は圧着するよりも余計にかかってしまうことになる。なぜかというと、通常、幹線には2ミリのケーブル(許容電流約20アンペア)を使い、支線には1・6ミリ(許容電流15アンペア、厳密に言えばいろいろあるが、電気屋さんの世界ではざっくりそのように分類している)のケーブルを使う。アマゾンで見ると、2ミリ2芯のケーブル(1巻100m)が1万4000円、1・6ミリ2芯のケーブルが9200円。つまり、ワゴを使えば工期は短縮できるが、電線の予算は支線部分だけとれば1・5倍になる。
 ここからは想像だが、例えばこんなやりとりがあったのではないか。
 「親方、2ミリとテンロク(1・6ミリの通称)でワゴ使うのはまずいのでは?」「工期がない。圧着なんかしている暇はない、予算も足りない。どうせ半年もてばいい、構わないから、ワゴでやれ」
 私の推測が正しければ、メタンが発生する万博会場の、人目につかない館内のあちこちでぱちぱちと火花が散っている可能性が高い、ということになる。
 他にも、大阪ヘルスケアパビリオンのテストランに際して、フロアコンセントを何度も踏んだら漏電して館内が停電した、対策としてフロアコンセントはすべて閉塞する、と大阪府・市万博推進局が発表している。冗談ではない。フロアコンセントは踏んづけることを前提につくられていて、人が踏んだくらいで漏電するわけがない。「踏まれてコードの絶縁体が欠損した」というのは、電線ケーブルを金属の床材がガッチリ噛んでいたということ以外にありえず、これも単純な施工不良である。ド素人としかいいようがない工事だが、恐らくは人手が足りず、まともな業者が手配できなかったのであろう。
 工期も予算も足りない突貫工事で、目も当てられない不良工事がまん延している。電気だけでもこれだけトラブルが生じているのだから、他にもどれほどの施工不良箇所を抱えているかわかったものではない。半年間の万博会期中、何らかのトラブルや事故は避けられない、という予感がする。