統一教会がもたらしたもの
「社会の片隅には、陽のあたらない場所で黙々と、誰かのために身を削る人がいる」(あとがき)。こういう人たちによって、社会は救われている。
3月25日、東京地裁は旧統一協会に対し「高額献金や霊感商法」をめぐり、ついに解散命令を出した。霊感商法が社会的大問題になってから40年。87年に結成された全国弁連(全国霊感商法対策弁護士連絡会)の集計では、37年間で約1340億円の被害額があり、実際にはその10倍1兆円を超えると言われる。

「私が彼だったかも知れない」
2022年7月8日、大和西大寺駅前の選挙演説中の安倍晋三元首相が、信者2世の山上徹也の手製散弾銃による銃撃で死亡した事件が、大きな転換点となった。
「山上徹也のことを他人事だとは思えない。私が彼だったかも知れない」「事件からずっと涙がとまらない」「容疑者の気持ちが解ってしまう」…。信者2世たちの今も終わらない苦しみ、現在も100人ほどの仲間たちの交流が続けられているという。

安倍政権との癒着
2021年、統一教会・UPF(天宙平和連合)主宰のオンラインサミットでの安倍首相ビデオメッセージは、上記事件の引き金にもなった。時の権力である安倍政権と、カルト犯罪組織である統一教会との癒着、連合という実に驚くべきできごとであった。安倍首相の暗殺事件は、ある意味、歴史的脈絡から振り返ると歴史的必然であったとさえ言える。山上徹也が「我、一命を賭して全ての統一教会に関わる者の解放者とならん」とした死を覚悟しての行為は、2世被害者総体の「やむにやまれぬ思い」の極点であったと推測するのは、「人間倫理」にもとることになるだろうか。

エイト氏や全国弁連、信者の苦闘
山上徹也の「テロル」が統一教会の解散命令につながった事実は、誰も否定できない。みんなわかっていながら、誰も止めなかったし、止めようとすらしなかった。テロルによってしかなされなかった事実は、歴史的事実として残るだろうし、残らねばならない。
「テロル・暴力は絶対に許されない」と、どんなに倫理を振りかざそうとも、統一教会というカルト犯罪組織と、時の政治権力との癒着がどれほどの多くの信者や信者2世を地獄に突き落としてきたのか。悲劇の歴史を覆い隠すことも、山上徹也を非難する資格も、誰にもないと言える。
鈴木エイト氏や、全国弁連たちの血のにじむような、長い地を這うたたかいがあったればこそ、悲劇の歴史が全面的に社会の舞台に立ち現れたのである。この書は、信者や信者2世たちの書でもある。「心優しい信者たち」という鈴木エイト氏の22年間の格闘と、信者と信者2世の苦難に思いをはせたい。(啓)