昨年12月の「兵庫県政に民主主義をとりもどす集会」は、300人予測のところ、1600人の人たちが集まった(神戸市内)。急きょビデオ会場を増設するも、大半の人が会場に入れなかった。5月に行なわれたミュージシャン、REBELさん呼びかけの県庁デモには1000人近くが集まり、「斎藤知事が扮する楠木正成・武者行列」へのカウンターデモとなった。
いずれも、ユーチューバーの人たちも呼びかけ、大きな結集力のテコとなったようだ。チュニジアのジャスミン革命や韓国のキャンドル革命は言うまでもなく、都知事選における石丸現象や兵庫県知事選における「立花現象」は、アメリカのトランプ選挙や、ヨーロッパのポピュリズム政党の後を追って日本社会にもSNSによる「選挙革命」や、大きな政治変動の波が襲ってきている。

ポピュリズムの仕掛け人
『ポピュリズムの仕掛人~SNSで選挙はどのように操られているか』(ジュリアーノ・ダ・エンポリ:白水社/2200円+税)は、その実態とからくり解明の手助けになる。そこでは、「五つ星運動」を連立政権につかせたマーケティングのプロ、ジャンロベルト・カサレッジオ(伊)、トランプを大統領に導いたスティーブ・バノン(米)はじめ、英のマイロ・ヤノプルス、ハンガリーのアーサー・フィンケルスタインなど、選挙の成功例についてその方法・実態・問題点を紹介する。
「五つ星運動」では、イタリアで最も人気あるコメディアンのペッペ・グリッロと組んで、討論や出会いが簡単に可能となるインターネットのプラットホーム「ミートアップ」を導入し、「政治に参加する」にはブログに参加すればよく、それを通じて市民はいろんな意見交換や興味ある情報の共有が可能となり、ネットワークは瞬く間に広がる。163人の国会議員を生み出し、右派「同盟」との連立政権をも実現する。

相互作用を生み出すシステム
だが、2代目カサレッジオの国会議員を「蟻」とする個人商店のような体(てい)のシステムを暴き、イタリアの報道の自由を制限する要因に「五つ星運動」を上げる「国境なき記者団」の年次報告書についての指摘も忘れない。
分断・対立拡大の煽動、既得権益擁護の政治エリートをトコトン叩くスタイル、直面する困難の責任転嫁と陰謀論への誘導、右派・左派のイデオロギー差違の融解など、興味ある実態が明かされる。
エコーチェンバーやフィルターバブル現象をSNSの<アルゴリズム>の不可抗力的なデメリットのように理解していたが、アルゴリズムそのものが「一種の洗脳」手段としてネット利用者の反応に基づき、利用者との相互作用を生み出すシステムとして考え抜かれ、発明されたものであることに驚いてしまう。
他方、SNSを民主主義を補完する技術として利用するために奮闘する、台湾デジタル相の『オードリー・タン~デジタルとAIの未来を語る』や、『ツイッターと催涙ガス~ネット時代の政治運動における強さと弱さ』(ゼイナップ・トゥフェックチー)など合わせ読むと、運動におけるSNS理解への大きな手助けとなるかと思う。(啓)