
ネタニヤフによるガザ・ジェノサイド、あるいはウクライナ戦争に、世界中が抗議の声を上げているにもかかわらず、この戦争犯罪を止める有効な手を打てないなか、揺さぶられる本が出た。プーチンとネタニヤフへの逮捕状を発行した国際刑事裁判所(ICC)所長、赤根智子さんの本だ。プーチンから指名手配を受け、トランプからICCへの制裁を受ける中で、身辺警護を受けながら世界の大舞台で戦争犯罪とたたかいながら、日本や世界の人々に問いかける。
2007年、日本も締約国
ICCは、ニュルンベルク裁判、東京裁判、旧ユーゴシスラビア国際刑事法廷、ルワンダ国際刑事法廷などの積み重ねの上に、ソビエト連邦の崩壊と冷戦の終結の「雪解けムード」の間隙をとらえ、1998年7月、ローマで開催された国際会議で「国際刑事裁判所に関するローマ規定」が採択された。賛成129カ国、反対が米・中・イスラエルなど7カ国、棄権がインドなど21カ国で出発した(ロシアは未締約。現在125締約国、国連加盟国193カ国のうち3分の2)。
日本は2007年に締約国になり、赤根さん含め3人の裁判官を輩出し、分担金は締約国中1位だという(*参考/ジェノサイド条約は、1948年に国連で採択された国際条約で153カ国が締約国となっているが、日本は未批准であるという大きな矛盾)。
裁判所は、オランダのハーグにあり、1000人近い職員を擁する。ローマ規定第5条に定められる「中核犯罪」には、①ジェノサイド犯罪、②人道に対する犯罪、③戦争犯罪、④侵略犯罪の4つがある。ネタニヤフやプーチンへの逮捕状だけでなく、最近ではミャンマー軍のミン・アウン・フライン総司令官や、フィリピンのロドリコ・ドゥテルテ前大統領へ逮捕状を発行した。フィリピンは、ドゥテルテを香港からの帰国後逮捕し、身柄をハーグに送っている。
政治情勢に左右されない姿勢
20年の活動実績があり、20件近い中核犯罪を扱っているが、赤根さんはあくまで政治情勢に左右されず、法・ルールに忠実に運営していることに胸を張る。また、締約国の数をもっと増やし、消極的な日本政府を叱咤しつつ(日本には、ヨーロッパのような中核犯罪に関する法律や、国際刑法の整備が全くないと指摘)、東京に事務所を設置し、日本の若者にICCで働くことを訴える。ロシア、アメリカなどにICCがつぶされるようなことになれば、今の世界情勢では二度と立ち直れないと危機感も露わにする。
ICCが実際には裁けないとしても、ネタニヤフやプーチンに戦争犯罪の罪で逮捕状を出していることの意義や衝撃は計り知れない。その労苦に学び、支援の手を~。(啓)
