
「兵庫県に人権と民主主義を取り戻す県民のつどい」が開かれた(呼びかけ:県知事選を振り返る市民の会、6月29日、神戸市内)。
兵庫県と県民は、昨年秋の知事選以降、混乱と分断の中に置かれた。それは「県政の方針や内容、政策」などを巡ってではないだろう。斎藤知事の記者会見などでの言葉は、ほとんど「県政を前に進める」「躍動を止めない」などにとどまる。内容はなく空気感だけ、それもまったく主観にすぎない。政策や県政の方向は示されない。本人がどこまで自覚し意図しているのか疑問であるが…、民意を翻弄し、分断を煽る手法であろう。
そんな発端になった知事選から8カ月。この10年余、市民と野党の共闘や市民参加の選挙を呼びかけてきた「連帯兵庫みなせん」代表の松本誠さん(市民まちづくり研究所所長、元神戸新聞記者)が、「漂流する兵庫県政の深層と今後」を話した。要旨を紹介する。(編集部)
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兵庫県政の漂流は、斎藤知事個人の問題を超え選挙や自治体運営のあり方を根底から揺るがす問題を内包している。だからこそ、全国から注目されている。県政漂流の根っこにある問題を明らかにし、市民や県民がどのように対処するべきかについて考えてみたい。
混乱が始まったのは4年前の知事選から
昨年3月に始まった元県民局長による“知事の犯罪内部告発”と知事の反撃(嘘八百の誹謗中傷文書)を、メディアなどが「県政混乱の始まり」としているのは間違いだろう。
4年前、2021年7月知事選における斎藤擁立と選挙戦、その後の県政への対応に県政漂流の要因が内包されている。その時の知事選では「井戸長期県政への批判」や「斎藤の“県政を前へ進める”への無自覚的な?歓迎」に終始し、その後の「斎藤県政批判の欠如」「維新迎合、県政私物化、県政の停滞を見抜く視点の欠如」など、4年前の知事選の総括が行われないまま、現在に至ったことが問題だ。
4年前の知事選は何だったのか
「維新の兵庫進出」のきっかけ、安倍・菅政権の延命工作に利用された斎藤擁立ではなかったか。5期20年続いた長期・井戸県政への批判はあったが、井戸後継候補についての不一致と逡巡も交錯していた。
維新による斎藤擁立(兵庫への送り込み)を利用した菅政権の思惑と、自民県連の分裂…。維新の思惑は、二つあった。「難航していた兵庫への勢力拡大」と「万博へ兵庫を引きずり込む」ことなどだ。
政権の思惑。「安倍・菅政権の延命手段としての維新取り込み」へ、兵庫県政に介入した。地元国会議員が一団となって、県連と県議会議員団をまとめ斎藤支持に一本化し、県議団は分裂選挙に。県政与党に安住してきた共産を除く野党も「第三の候補」模索したが、果たせなかった
「みなせん」の呼びかけで、最終的に立憲、国民、社民、新社会、みどりは「反維新」で一本化したが、結果は斎藤85万票余、金沢60万票、共産党ほか3人の候補に40万票近くが分散し、大差で斎藤が当選した。
発足後の斎藤県政の特徴と問題点
“井戸色”一掃へ異様な執念を燃やした。内部告発の第1に挙げられた震災記念21世紀研究機構の「副理事長2人の解任通告」は象徴的だった。井戸色とみられる幹部職員を外し、斎藤が宮城県出向時代に知り合った旧知の職員を側近に登用した「側近行政」が県職員を分断した。
兵庫県政は長年、自治省・総務省出身の知事が続いていたが、それでも「地方分権をリード」し、「震災復興では一定の地歩」を築いてきた。これらを全否定し、大阪府・市行政にならった維新流の「行政スリム化や統廃合」「職員削減等を独善的に推進」した。
側近行政や、知事のパワハラ的体質は、職員の県政運営へのモラールも低下し、「旧弊を改め、県政を前へ進める」という建前とは裏腹に、県政の停滞と混乱を招いた。元県民局長の内部告発が的を射ていただけに、斎藤知事は“逆上”する。
1年3カ月余の県政漂流 2つのステージと視点
斎藤県政への“不満のマグマ”が限界に達し噴出し、失職知事選まで=第1ステージ。
発端は「勇気ある内部告発」だったが、職員や県議会内部にも知事批判が点火される。
知事の“逆襲、強権発動”に斎藤批判が高まった。百条委員会の発足と証人喚問。全会一致の不信任決議から、昨年11月知事選へ。7月には、元県民局長が死去するという痛恨の事態となった。以下、経緯を列挙してみる。
報道機関等に内部告発文書(24年3月)
知事の指示で副知事らが元局長のパソコンを回収し告発者を特定(3月)
知事の「嘘八百」発言と元局長の退職人事取り消し(3月)
元局長を停職3カ月の懲戒処分(5月)
知事が第三者委員会による文書問題の再調査を表明(5月)
県議会が百条委員会の設置を決定(6月)
告発した元局長が死去(7月)
県議会が全会一致で不信任決議を可決(9月)
10月31日知事選告示、11月17日投開票、斎藤再選(11月)
斎藤再選、公選法違反や公益通報者保護法違反の告発対応への“断罪”=第2ステージ。
SNS選挙や2馬力選挙など、不公正な選挙の実態と公選法違反(買収容疑)の刑事告発。百条委員会報告や第三者委員会による“断罪”への開き直り(25年3月)
公益通報者保護法の運用に対する独善的開き直り。公選法違反容疑(買収)で県警から地検への書類送致、検察判断へ(6月)
県議会等からの「辞職要求」への開き直りと膠着状態へ(6月末)
なぜ知事の椅子にすがりつくのか? 2つの側面
現在の県政漂流の「主因」は、斎藤知事の開き直りと、知事の椅子にすがりついて逃げ延びようとしていることにある。県議会や第三者委の結論を受け入れて、速やかに辞職して知事の座から身を引くことは当然だが、なぜ彼は、知事の椅子にしがみつくのか。
• 本人が知事になる前から抱いていた「知事になるべくして生まれた」という自分勝手な自意
識。②「斎藤が知事でいてくれる」ことを願う背後の勢力に支えられているから、「早々に辞められない。辞めなくてもいい」という開き直りにつながっている。それは、4年前の斎藤知事誕生の経緯からも容易に伺える。
党の浮沈をかけて進めてきた万博の成功を最優先する維新にとっては、就任当初から「万博支援に並々ならない力を注いできた斎藤兵庫県政」を失うわけにはいかない。東京都を除く全国の46道府県が、大阪万博に注いだ関連費用100億円余のうち、兵庫県だけで半分近い50億円余を注いできた。その数字だけでも、維新にとっては斎藤知事の役割はとてつもなく大きい。
4年前の知事選で、自民党県連会長でもあり斎藤支援一本化に尽くし、淡路開発を進めるパソナグループと関係の深い西村康稔氏と周辺の勢力は、この1年半の経過の中でも一貫して斎藤支援に動いている。
ユーチューブ・ジャーナリスト、佐藤章・元朝日新聞政治部記者が「斎藤が知事に居ることによる利益を受ける集団」として万博閉会後の産廃処理場と大手産廃事業者の存在を挙げていたが、兵庫県西部の赤穂市と上郡町に巨大な産廃処理施設が計画され、背後で大手産廃業者が蠢いている事実がある。実際に、どこまで斎藤とつながっているかは不明としても、万博関連の事業者が関わる上で「利用しやすい知事」が居てくれる方が都合がいいのは間違いない。
昨年の知事選でなぜN党・立花が動き、旧統一教会系組織が動いたのか。こうした人脈の関わりが、折からのSNS選挙による“選挙ジャック”を支えてきたということが、すでに「斎藤の逆転再選劇」の真相として明らかになっている。維新は党勢衰退の要因の一つとして大きく浮上している兵庫知事選への関わりの“火消し”に躍起だが、除名・離党勧告を受けた県議ら3人は、地域政党「躍動の会」を立ち上げて、参院選や自治体選挙で候補者を擁立し、斎藤県政支援の勢力拡大へ公然と動き始めている。
斎藤県政、今後の行方
「斎藤県政の継続を良し」とする勢力が根強く存在する中で、斎藤辞職とその後の安定した知事の選出がない限り、県政の漂流は続く。ただし、斎藤県政が長続きする見通しはない。すでに知事としての資質がないことは自明になっており、焦点は「いつ辞職に追い込むか」にある。
公選法違反の刑事告発がすでに検察に書類送致されており、検察が在宅起訴して有罪となれば執行猶予付き判決でも知事は失職し、公民権停止になる。検察が起訴猶予処分とすれば、検察審査会の出番になり、強制起訴の可能性もある。
年が明ければ改選まで1年になる県議会も、議会解散を気にすることなく2回目の不信任決議に向かう可能性もある。要は、時間の問題で斎藤は「詰んでいる」ということか。(つづく)
