
「被爆80年の今年。世界の状況を見ても、被爆から80年というよりも、核の時代が始まってから80年、核危機と核廃絶に向けた新たな起点と言うべき…」(インタビュアー小山美砂)。

青木 初めて広島を訪れたのは、高校の修学旅行だった。その後、通信社の仕事にかかわるようになり、「ヒロシマ、被爆」を追うようになった。
90年代の後半から、朝鮮半島の問題を取材した。北の核問題を取材するために、安保・核政策などに少しは知識を得たが、「ヒロシマ、ナガサキ」をどれほど知ってきたかは、覚つかない。
2000年代に韓国に駐在した。今も朝鮮半島は、分断が続いている。当然ながら北朝鮮の核実験、保有などの問題は取材の課題になった。最近、「核兵器は安上がり」と言った政治家がいる。じつは核兵器は「貧者の兵器」とも言われる。あの国にとっては自分たちの体制を守るため、アメリカという世界最大の超軍事国家から受ける圧迫に対抗するために、「核兵器を持つしかない」というのは“一理ある”のかもしれない…。
小山 いまの日本、「核武装も」という声も出ている…。そこには北朝鮮、共和国に対する意識があると思う。それに、どう対するのか。広島には朝鮮人被爆者協議会があり、いわゆる北支持の人たちもいる。彼らは「共和国の核は、アメリカの核による威嚇に対するためだ」と…。私たちは、そういう核にどう向き合うのか。
どんな理由でも核は許されない
青木 アメリカであれ北であれ、「体制を守る」とか、どんな理由があろうと、核兵器とその保有は認めてはならない。国際情勢のなか、広島、長崎以降、例えばキューバ危機などかあった。いまはロシアのウクライナ侵攻など、もっと危険な状況にある…。「核による脅し」が、ある意味「有効化」してしまった。
これまでは一応、核拡散防止、NPT条約があった。それは別言すると「不平等な体制」でもある。つまり「米英仏ロシア中国の5カ国は「核をもってよいが、その他の加盟国は持ってはならない」というもの。しかも、国連安保理常任理事国である。
最大の保有国であるロシアがウクライナに侵攻し、「使う」と脅した。ロシアだけではない。アメリカは(イスラエルの意図を汲み)イランの核施設を攻撃した。イランは「核保有」に意欲を見せていた。同時にイランは、NPT加盟国でもある。イスラエルは事実上の核保有国でありながら、加入していない。
米ロこそ率先し核軍縮を
本来なら、最大の保有国である米ロこそ核軍軍縮に努力するべき。それが逆に「核による威嚇」を行なう。「やっぱり核を持たなければ」という北朝鮮の理屈に、むしろ力を与えている。米ロの行為は、「核拡散」という方向に向かうに等しいのでは。NPT体制は、非常に不平等、不完全であり問題があるが、さらに骨抜きにされるという危うい状況が懸念される。それが「被爆80年」の世界の現状ではないか。
日本が「核抑止」を言う、より危うい時代に向かおうとしているのではないか。世論調査でも「核保有」「核武装」論は、かなり上がってきている。
小山 きょうの広島市平和宣言にも「自国のことのみに専念する安全保障政策そのものが、国と国との争いのもとになっていないか。核兵器を含む軍事力の強化を進める国こそ、核兵器に依存しない建設的な議論をする責任がある」(要旨)としている。とても大事なことだ。しかし、アメリカによるイラン核施設への攻撃にも、日本政府は追随しているばかり。
「抑止力」に拘泥する被爆国日本
青木 日本(政府)は、「アメリカに依存する」態度をとる。「核問題」「自衛隊“別班”」問題を追及している記者がいる。記者としては、難しいテーマだ。最近、いわゆる台湾海峡問題をめぐる自衛隊と米軍の合同机上演習があったとき、自衛隊幹部が米軍に「核の脅しを使ってくれ」と迫ったという報道があった。「核抑止力」に強く拘泥しているのは、核被爆国である日本ではないか。
プラハで「核なき世界をめざす」と演説したオバマ大統領は、ノーベル平和賞を受けた。オバマ政権下で「核なき世界」がどこまで進んだのかは大いに疑問があるが、彼は政権末期に「核の先制不使用宣言を出せないか」と、ホワイトハウスで真剣に検討したという。「相手が使えば使うぞ」という核のあり方からは、「先制不使用」は当たり前。政権の最後のレガシーにしたかったのかも知れない。しかし、それは頓挫した。
頓挫した大きな理由の一つは、日本の「反対」だったという。「唯一の戦争被爆国」と言いながら、いかに日本が「核抑止力」ということに依拠しているのか。残念に思わざるを得ない。
排外主義と結びつく危うさ
小山 日本政府の責任の重さを思う。広島は、核兵器禁止条約に関心が高い人が多い。だけど、やっぱり少数派というのは否めないだろう…。
青木 今回の参院選、いわゆる某新興政党に多くの票が集まった。30代から50代の「若い世代」の支持が大きかったと言われる。いわゆる氷河期世代、派遣法など非常に不安定な働き方を強いられ、景気も低迷した時代の人たち。将来が見えない。世界最大も言われる財政赤字、社会保障の持続も疑われる。地球温暖化など、環境の先も危うい。将来も、現在の生活にも不安、不満、憤り…。
小山 「日本人ファースト」は、「軍備増強」にもつながっていく。「外国、外国人の脅威」ということをエスカレートしていけば、「国を守れ。だから安全保障だ」と危うい状況がすすむ。
原爆、ビキニ、フクシマ 廃絶への途
青木 そうですね。ヨーロッパもそう。アメリカも中間層が没落し、「アメリカファースト」のトランプ人気が高まった。どこでも、排外主義が広まる。ヨーロッパ、EUやメルケルに象徴された「ある種の寛容さ」~それにバックラッシュが始まる。「(移民のせいで)職を奪われる。賃金が下がる」などなどが跋扈し、蔓延し始める。それを極右が受けとめるという構図になる。今回の参院選、そうなっていくのかと思った人も多いだろう。
さらに、それが「軍備増強」にも結びつく。この国は広島、長崎があり、さきほど聞いたビキニ・第五福竜丸があり、フクシマがあった。原爆が投下された国、核実験の被害に遭った国、最悪の原発事故を経験しつつある国。世界最悪の事故かどうかはともかく、少なくとも複数の原子炉が同時にメルトダウンを起こした。こんな国は世界中をみても、ない。日本は「前進していないのに」バックラッシュが起きる国でもある。
「広島、長崎、ビキニ、フクシマ」~「平和利用」という原発も含め、「核廃絶」へ声をあげていきたい。(要旨/文責は編集委員会)*「世界の核兵器数」はヤフーニュースから(2024年)。*青木さん、小山さんとも文中の敬称を略した。
