
7月の参議院選挙を前に、外国人、難民、民族的マイノリティー等の人権問題に取り組むNGO諸団体が共同で、「排外主義の扇動に反対する緊急声明」(賛同団体1159団体)を発表した。この緊急声明を呼びかけた、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)共同代表の鳥井一平さんが京都市内で講演を行った(8月11日)。
いま日本社会の中で、選挙に名を借りたヘイトスピーチやゼノフォビア(外国人嫌悪)が跋扈(ばっこ)している。参院選でも「日本人ファースト」(=外国人排斥)が政党のスローガンとして堂々と掲げられ、ウソとデマによる差別扇動が吹き荒れた。そしてこうした人種差別を規制すべき政府が、差別扇動を規制するどころか、それに乗っかって政権維持をはかるという恐るべき状況が生みだされている。
鳥井さんは、排外主義の扇動に対しては、「徹底したファクトチェックを行い、事実を拡散することが必要だ」と強調した。日本に在住する外国人は、昨年末統計で376万人。全人口に占める割合は3.05%である。また外国人労働者230万人で、全雇用者数に占める割合は3.74%にのぼっている。
鳥井さんは「日本には移民政策がないのではなく、ゆがんだ移民政策をとり続けてきたことが問題だ」と指摘する。政府の「受け入れ」政策は、1980年を前後して大きく転換した。1980年以前はオールドカマー(旧植民地出身者とその子孫)に対する管理・監視政策だったのが、1980年以降はニューカマー(経済的要請による新たな移住者)の受け入れ政策へと移行していった。1980年後半から90年代前半にかけて、バブル経済を背景として外国人労働者が急増した。1993年には、30万人を超えるオーバーステイ(在留期間を過ぎた外国人がそのまま日本にとどまっている状態)の労働者が存在していたが、法務省入管当局は事実上容認していた。
こうしたなし崩し的なオーバーステイ容認政策の弥縫(びほう)策として、1990年に日系ビザの創設し、1993年には外国人技能実習制度が創られた。2009年の入管法改正で在留資格「技能実習1号・2号」を創設。2012年に外国人登録法を廃止し外国籍住民票に移行。2019年に特定技能制度を創設し、2024年には技能実習制度の廃止が決定された。
日本ではすでに多民族・多文化共生社会が始まっている。移民は社会の中で活躍し、その一翼を担っています。そういう中でなぜウソ・デマ・ヘイトの扇動が拡散し続けているのか。それは政府が「移民」という用語を使用せず、多民族・多文化共生社会の現実に向きあわずに、移民に対する奴隷労働=使い捨て労働力政策を続けていることが原因である。「政府の移民排除の意向が、フィクションによるゆがみや恐れを生み、ヘイトの拡散につながっている」と鳥井さんは指摘した。
最後に鳥井さんは私たちがめざすべき社会像として「多民族・多文化共生社会の推進」「誰一人取り残されることのない社会」「言語、宗教、文化の違い、認識差を前提にした労働者政策」「労働者の権利、市民の権利を尊重し、民主主義を深化させる社会」をあげた。「円安でも日本に労働者が来るのは、安全安心の社会があるからで、その民主主義を尊重し発展させることが問われている」という言葉が胸に響いた。(多賀)
