龍野
            渡辺信雄
日暮れが早いのか
揖保川の橋を渡りかけると
夕陽は もう山の端にかかり
煌めく細波を打ち寄せる川岸に
釣り人が
独り
影絵のようになり
手繰り寄せた一匹の魚と
格闘していた
影絵の曳く糸が 切れて
一匹は どこか深い方へ
戻っていった

あれから何年もたつ
眠ったような町で
帽子を目深に被った
影絵の男を
見かけることはない