
9月8日の朝日新聞に、アフガニスタン東部地震の記事があった。その見出しには「アフガン 脅かされる女性の命」「タリバン支配下、『診療は同性医師』難しく」とあった。
これは以前から恐れていたことだった。地震は自然災害だが、その被害は決して平等ではない。被害は差別を被っている側に集中する。被災地に近い病院で治療を受けた人の男女比をみると、女性は男性の1割でしかないという。しかも女性が治療を受けられるのは重篤になってからだ。育児、家事、介護にもっぱら従事している女性の在宅率は、男性よりも高い。そのため女性が崩壊した家屋の下敷きになったり、傷ついたりすることが多いのではないだろうか。
女性が女性医師や医療スタッフによる診療を望んでも、アフガニスタンではその数は非常に少ない。女性の教育は小学校までしか認められず、就労も制限されているからだ。これでは女性医師が育つはずがない。またアフガニスタンにいた女性医師の多くが、タリバン政権に代わったときに、弾圧を恐れて国外に逃れたという。
「それなら男性医師に診てもらえばよいのでは」と思うかもしれないが、アフガニスタンでは、女性は夫以外の男性に肌を見せたり、触らせたりすることができないという文化がある。それがイスラム主義のタリバン政権下では厳格化され、違反した場合は処罰されることもあるという。そのような状況の中で、妻や娘が重傷を負っても、夫や父親が病院に連れて行くことはまずない。それが最初に述べた女性患者が男性患者の10分の1という深刻な現実を生み出している。
女性の命を脅かす差別を目のあたりにすると、怒りで体がふるえるが、アフガニスタンではこういうこともあった。米軍が撤退し、タリバン政権が発足した直後のこと、夫を戦争で失った女性たちは、道端に座り込んで物乞いをするしかなかった。女性は就労を禁じられているからだ。そこであるNGO(非政府組織)がそうした女性たちにたいする集中的な援助を行おうとしたが、タリバン政権の怒りを買って、撤退せざるを得なかったという。「未亡人(他の男性の妻)に手出しをするな」という理由だ。だからといって彼女たちに公的な保障があるわけではない。そのため「物乞い」だけでなく「売春」で辛うじて命をつないでいるという。タリバン政権はその現実を知っているはずである。
タリバン政権の政策の基本となっているイスラム教の原理主義的解釈は、「人間の解放」の教義とはとても思えない。(朽木野リン)
