
岡真理さん(早稲田大教授・京都大名誉教授)の「ガザの《ジェノサイド》とは何か」の講演を聞いた(9月9日、神戸市内/主催:フォーラム平和・環境・ひょうご)。岡さんは、次のように話した。
ジェノサイド、大量虐殺
ガザで起こっていることはジェノサイド(大量殺戮)である、ジェノサイドと叫ばなければいけない。8月31日、ジェノサイドを調査研究し、防止策を推進する国際ジェノサイド研究者・学会(IAGS)は、「イスラエルがパレスチナ・ガザで組織的、かつ広範囲に人道に対する罪、戦争犯罪、集団虐殺を行っている」と宣言する決議を採択した。
しかし、日本をはじめ西側諸国はジェノサイドと言わない。アメリカ、ドイツなどでジェノサイドと呼ぶこと自体が、反ユダヤ主義者だと逮捕されることもある。問題は、そこにある。

イスラエルによる違法占領
9月9日のニュース、「9月8日、エルサレムでテロがあり銃撃6名が死亡した。銃撃した2名のパレスチナ人が射殺された。ハマース声明『英雄的な作戦』という新聞記事」があったが、報じられていないことがある。エルサレム近郊としか言っていないが、この地域は1967年からイスラエルによる違法な占領が続いている。
国際司法裁判所は去年、イスラエル軍、入植地、入植者に退去を命じる勧告を出している。なぜ勧告なのか。国際司法裁判所に強制力がないから。それをいいことに、イスラエルはパレスチナの地で民族浄化を進めている。難民キャンプから住民の追放、キャンプの破壊、住宅の破壊、入植者・占領軍による襲撃、殺人などが10月7日以降激化している。それに対し、国際社会・西側世界は何もしない。
「何もしない」日本の加担
その、何もしないこと、不作為がテロを生み出している。決してテロを肯定したいわけではない。国際社会、日本、日本人がこの状態に対して何もしていない、加担している責任がある。
日本のメディアは、「ハマースのテロ」対「イスラエルの自衛の戦争」、ユダヤ人対パレスチナ人の憎しみの連鎖、ユダヤ対ムスリムの聖地をめぐる宗教対立などとしている。
ハマースの「10月7日」(2023年)の攻撃は、突然始まったのではない。イスラエルによる積年の国際法違反、占領、封鎖という歴史的な背景がある。それらは報道されない。メデァは、「二つの物語の対立」として描く。
ユダヤ人の物語、2000年にわたる離散と迫害、20世紀にはその頂点としての大量虐殺に遭ったユダヤ人が、2000年来の悲願であった故郷への帰還と祖国の再建を果たした、パレスチナの物語。その結果として、パレスチナ人は祖国を追われてしまったと言う。
植民地主義の価値観
両者を「対等なもの」と位置づけ、それぞれの物語を並置する。それは、全て嘘である。イスラエルはアメリカ、カナダ、南アフリカなどと同じ「入植者植民地主義」の国家である。シオニズム・イスラエルは、パレスチナ人を民族浄化することによって建国された。ヨルダン川から地中海までの土地を占領支配し、ユダヤ人のみが自己決定権をもつ、ユダヤ人至上主義のアパルトヘイト国家である。
なにと、なにが戦っているのか。西側世界(先進国)は、歴史的な旧植民地帝国であり、現代もなお、植民地主義的な世界支配システムを維持している。イスラエルはそのレプリカである。それに対し、グローバルサウスは「自由と平等と尊厳」を求め、植民地支配からの独立、普遍的な人権の貫徹を求めてきた。
6万4231人
今年9月9日現在、ガザ保健省によると23年10月の戦闘以降、イスラエル軍の軍事作戦によるガザでの死者は6万4231人、負傷者16万1583人。行方不明者9000人、その内2000人がイスラエルに連行され拘束されている。実際は、その1.4倍ぐらい死者がいるだろうと言われている。
最近の紛争では、間接的な死者は直接的な死者の3倍から15倍に上ると言う。間接的な死者とは、餓死や医療を受けられず亡くなる人たち。控えめに見積もっても既に48万人以上が亡くなっていると思われる。
ガザで起こっていることは、紛れもなくジェノサイドである。イスラエルに拘留されているパレスチナ人2000人は拷問、虐待を受けている。餓死が起こっている。なぜか。2025年1月から2月の停戦期間中には、ガザに国連主導によるによる支援が展開されていた。3月2日以降、人道支援物資の搬入禁止により、その機能がほとんど止まってしまった。

支援、配布拠点を破壊
以前、200カ所あった配布拠点がGHF(アメリカ、イスラエルが設立したガザ人道財団)の4カ所に減らされた。GHFの配布拠点に何キロ、何十キロも歩いていかなければならない。食料を求めて集まった人々に、GHFの武装警備員による発砲も起こっている。その運び込まれた遺体を見ると、日によっては頭ばかり、ある日は心臓ばかり撃たれている。スナイパー(狙撃)の訓練をしていると言われ、死の罠を仕掛けている。
人間は、自分以外に大切なものは何もないとなったとき、真に敗北する。生きる意味が失われる。人間に留まりつづけること、ガザのソムード(抵抗)を支える。飢餓は、このガザのソムードの基盤、それ自体の破壊を企図している。
ガザの、都市そのもののインフラが破壊され、どうやって生きていけばいいのか。夏は蒸し風呂、冬は雨期。冬は、テントで毛布1枚にくるまって過ごさなければならないし、凍死者がでる。体力のない子どもたちが倒れていく。道にゴミが高く積み上げられ、ネズミが大量に繁殖しテントで寝ているとかじられる。医薬品があれば、抗生物質があれば治るが、それもない。1万6千人が過ごすテント村に、トイレが25カ所しかない。
健康、衛生、医療、教育を奪う
ガザの人たちは、ミサイルや飢えで死ななくても、サニタスサイド(健康面、衛生面、環境)で殺されている。医療体制が破壊され、意図的に医者が殺されている。学校・教育が奪われ、大学教授、知識人は100人近くが殺され、学知が破壊されている。歴史、文化、記憶を奪っている。
ジャーナリストも240人以上が殺された。AI、ドローンを使い、その人を狙いミサイルで攻撃する。ガザは外から入ることができないなか、そこいる人たちが命がけで伝えている。
日本の加害責任
ジェノサイドである。日本は、イスラエルと包括的なパトナーシップを結んでいる。日本年金機構はイスラエル企業に投資している。加害責任がある。
私たちは「ジェノサイドをやめろ!」の声を、ひとりから上げていこう。つながっていこう。伝えていこう。(庄)*写真=ガザの状況を報告する岡真理さん(9月9日、神戸市内)。
