非常に面白かった。同じ重田さんの『ミシェル・フーコー/近代を裏から読む』(筑摩新書)に、フーコーが講義で「価値を変えろ」(ギリシャの哲学者の言葉を引用)と再三、学生に訴えたことを、「価値の変更や視点の転換は、あらかじめしつらえられた社会に通用する枠に揺さぶりをかけ、それを震撼させ、変えてしまうようなきっかけがあって初めて可能になる」という指摘に魅せられた。今様に言えば、「パラダイムの転換」か。
これまで自らに培ってきた価値観、世界観に「揺さぶりをかけ」「転換を実現する」ことは本当に難しい。自然科学で言えば、ニュートン力学に対するアインシュタインの相対性原理であったり、ガリレイの天動説から地動説の転換に心底唸ってしまうのだが…。自然科学が、唯物論的現実の理解・認識であるのに対し、社会的運動は原理・理念・理想を集団的、主体的人間の力で新しい社会を実現するものであり、根本的に違う。しかし、「存在が意識を規定」する壁に挑み壁を乗り越え、潜在的未来社会を思索と歴史や人間社会への洞察によって打ち立てようとする人類の営みに希望を託することは、本当に大切なことだと思う。「歴史的必然」の理解が「信心」に近かったようにも思え、実に反省させられる。
「主義者」として半世紀生きて、ちょっと袋小路で迷ってしまったからといって「アナキズム」はなかろうと思いきや、なかなかの思想家らを紹介してくれる。最近の勉強会で出てくるジェイン・ジェイコブズ、カール・ポランニー、デイヴィッド・グレーバー等を丁寧に解説してくれ、大変勉強になった。
初めて聞く、ヴァンダナ・シヴァや森政稔も出てくる。解説は力に余るので手にして読んでみるしかないが、いずれの登場人物も、このままいくと人類・地球の破滅となってしまうかもしれない「この社会」と諦めずに必死でたたかう、オルタナティブの社会めざして現実社会との思想的格闘&実践的格闘に真っ白で真剣に向き合う人々に出会うと、激励を受ける。(啓)