赤い松の誘い   渡辺信雄

山頂が抉りとられているのが
気になっている
崩れ落ちたのはわかっていた
何が降りてきたのか
赤い松が
心中してくれというように
緑のなかで待っている
銀色の
ススキを簪(かんざし)にして
浴衣姿の おんなが
見えかくれしている
夏の
最後の蝉が
ジュッと鳴いて
遠い旅に出ていった
橋を渡って
赤い松の下まで
行ってみたくなる
この道は抜けられません
という道を突破する