障害者を描いた映画で一番感動した映画を2本、紹介します。一つは韓国映画『オアシス』、もう一つはアメリカ映画の『チョコレート・ドーナッツ』です。先ごろまで入院していた病院の看護師さんや、リハビリの先生に盛んに薦めました。
私は、世界で最もうまい俳優は韓国のソル・ギョングだと思っています。彼は数々の映画やドラマに出演していますが、とくに感銘を受けたのが光州事件に出動した兵士の苦悩を描いた『ペパーミントキャンディー』です。小学校への通学路で暴行魔に襲われ、こころに傷を負った娘との絆を取り戻す父親役を演じた『ソウォン・願い』、それと日本のプロレス界のヒーロー力道山を演じた『力道山』。ソル・ギョングは、力道山の役作りのために体重を22キロ増やし、94キロにしました。彼のたどたどしい日本語のセリフ、力道山の苦悩と悲しみが胸に迫ってきました。
最近では、ネトフリックスで配信された「グッドニュース」の、nobody(チェ・ゴミョン)役が面白かったです。「グッドニュース」は、赤軍派の“よど号”ハイジャック事件のパロディ映画です。事件の解決ために動く謎の人物を演じています。

障害者の恋の物語
『オアシス』は、知的障害者の青年ホン・ジュンドウ(ソル・ギョング)と重度の脳性麻痺女性であるハン・コンジュ(ムン・ソリ)の恋の物語です。この映画は、なんといっても健全者のムン・ソリの演技がすごいです。ホンマの脳性麻痺者と思えるぐらいです。
ジュンドウは、兄の起こしたひき逃げ事故の身代わりになり、刑務所に2年6カ月間入っていました。刑期を終えて、ひき逃げ事故で死んだ清掃人の家に謝りに行きます。被害者の家族(コンジュの兄夫婦)は、コンジュを古いアパートに残して障害者用住宅に引っ越し…。残されたコンジュと出会います。
やがて二人の間に恋心が生まれ、デートを重ねます。ある昼下がりに、コンジュとレストランに入るのですが、レストランの経営者から「営業は終わった」と入店を拒否されます。他の客が食事しているにもかかわらずです。私もこれに近い経験があります。「空いてるなあ」と思えるお店に入っていくと、「今日は予約でいっぱいです」と言われることがあるのです。それは本当かも知れないし、断る口実かも知れないと勘ぐってしまいます。

不条理、差別を描く
映画の圧巻は、コンジュとジュンドウが結ばれるところで兄夫婦に見つかり、ジュンドウが警察に突き出されます。コンジュは警察で事情聴取を受けるのですが、取り調べの刑事に答えるのは兄の奥さんです。コンジュの恋心を完全に無視。コンジュは、車いすごと警察の壁際にある金庫にぶつかって気持ちを伝えようとするのです。このシーンで、私は泣けました。自分の存在と意思を伝えられないもどかしさや辛さを見事に描いています。
私もスーパーや役所で子ども扱いされる時もあるし、介助してくれている連れ合いに話しかけます。「ワシ、自分でもの言えるにゃけど」と心の中で思っています。
はっきり言って、こういう映画は日本では絶対に出来ません。俳優の力量と監督の演出力が違うのです。障害者が生きていく上での不条理、差別を見事に描いた作品です。障害者の親近者は都合のいい時は障害者を利用し、不都合な時は排除と差別する奴が多いと思います。これは、私の個人的経験です。兄弟と仲の悪い障害者、多いもんね。

涙もろい人は観ないように
『チョコレート・ドーナッツ』は、涙もろい人は観てはいけません。映画の最後でボロ泣き必定です。『チョコレート・ドーナッツ』の原題は、『any day now』~舞台は1979年のハリウッド。
ゲイバーで歌手として働くルディー(アラン・カミング)は、バーのお客の検事であるポール(ギャレット・ディラハント)と親しくなります。仕事を終え自分のアパートに戻ったルディーは、隣室に住むマルコの存在を知ります。マルコはダウン症の少年(14歳)で、母親からネグレクトされていました。
マルコの母親は、麻薬取締で警察に捕まり、マルコは一人ぼっちになりました。ルディーは、マルコを養子にしようとポールと力を合わせて裁判を起こします。LGBTQに理解のない当時、裁判は苦しい展開になります。
一方、生活面ではルディー、ポール、マルコの三人で幸せに暮らします。マルコの好物はチョコレート・ドーナッツです。そして、寝る前にルディーに寝物語をせがむマルコの希望は“ハーピーエンド”の物語でした。やがて裁判の結果、マルコは施設に入れられます。その時のシーンでマルコは、「That’s not my home」とつぶやくのです。
もうこれ以上、ネタバレは書けないです。ぜひ映画を観てください。映画の最後のほうでプロ歌手になったルディーの歌う「any day now」に、こころを揺さぶれられます。
日本でも演劇としてルディ―役に東山紀之、ポール役に谷原章介が演じ、マルコ役は高橋永・丹下開登の二人のダウン症の少年が交代で演じました。『オアシス』も『チョコレート・ドーナッツ』も、アマゾンプライムで観ることができます。『オアシス』は有料、『チョコレート・ドーナッツ』は無料だと思います。
人間の涙の成分って悲しみの涙と、うれしい時や感動した時の涙で変わるそうです。ぜひ、2作品の映画を観て、いい涙を流してください。(こじま・みちお)