
石川一雄さんにとって短歌は、死刑台と隣合わせの明日を希望できない独房の壁を打ち破る(忘れさせる)唯一の、いっときの自由な空間だったように思える。
それにしても、クビを覚悟で文字を教えてくれた看守や、獄中の短歌の先生(無実の罪で死刑になった)、三鷹事件の竹内死刑囚(獄死)との出会いが、小学校にも行けなかった、一雄を「一夫」としか書けなかった石川さんの「師との出会い」であり、それは石川さんを地獄から生還させた奇跡的出来事というほかない。
40篇の短歌と、作成した時の石川さんの思いがこもったこの本は、本を出版しようとした人たちの狭山再審勝利にかける思いが詰まっている、素晴らしい出版だと思う。
たった31文字に込められた思いが、石川一雄さんの過酷な人生の本当の意味が、普遍世界に解き放たれたような気がする。(啓)
