この本は2年ほど前に、時間つぶしで入った古本屋でタイトルだけ見て買ったものだ。いつもの癖で、すぐには読まず、2、3カ月前から読み始めた。
本の表紙には「日本資本主義が一人だちする明治30年前後。横山源之助(1870-1915)は労働者・貧民に深い同情をよせ、実態調査にもとづく秀(すぐ)れたルポルタージュの数々を世に問うた。本書はその集成であり、工場労働者をはじめ職人・都市の極貧者・小作人等の生活が生々しく詳細に記録されている。明治期ルポルタージュの白眉。(解説=立花雄一)」とある。
ここを先に読んでいれば、面食らったりしなかったのだが、いきなり本文が文語体で始まるのでビックリした。筆者はどんな人なのだろうと巻末の横山源之助小伝(立花雄一)から読んだ。こちらは1985年に書かれているので読みやすく、著者の足跡を知ることができた。この本に関心を持たれた方は「小伝」からお読みになることをお奨(すす)めする。 
漢字は新字体に変えてくれているが、本文は文語体の上、漢字の読み方も分からないものが多々あり、「~ざるベからず」などの二重否定の表現も多いので「う~ん?」と首をひねるところもある。
しかし労働者・貧民の生活実態を調査にもとづいて記録し、各職業について収入や支出、家族構成など「よくこんなに調べたな」と思うほど非常に詳しいので多少わからなくてもあまり差し支えないと思う。
内容は第1編「東京貧民の状態」第2編「職人社会」第3編「手工業の現状」第4編「機械工場の労働者」第5編「小作人生活事情」付録「日本の社会運動」、先述した立花雄一氏による「横山源之助小伝」である。
東京貧民の状態を記したところでは、狭い長屋住まい、故郷から身一つで出てきたため、茶わんや箸、布団まで借りるという暮らしぶりが描かれている。手工業の現状では、女工たちは繁忙期になると朝起きてすぐから夜中の12時まで働く。彼女たちの寝室は豚小屋のようで、汚くて見るに堪えないという記述がある。機械工場の労働者たちについては、職工が逃げないように賃金を全部渡さないで貯金させていたり、仕事に必要な漢字や計算を教えたりという「教育」を企業が施していたこと等の記述がある。
大阪府下の紡績工場では、東京などの他地域に比べて11歳未満の幼年職工が多く、筆者は「余は1日も早く各工場に全く幼年職工のなくならんことを欲して止(や)まざるなり」と書いている。
また貧しさから抜け出すためには「貧民学校が必要」とも。このころ議会で小学校教育無償化の議論がなされていたが、一般の子どもと同じ学校では貧しい親に教材を買う金がなく、子どもといえども働き手であるので、授業料をタダにしたからといって学校には行かせられないだろう。長い年月をかけて学校に行くのは無理なので、短い年月で容易に実用の学問を習得させる必要があると説いている。
時代は日清戦争の影響で米の値段が上がって労働者・貧民は暮らしに困っているのに政府は郵便税や醤油(しょうゆ)税が増税されている。そして議員たちは歳費を増額し、私利に走っている。選挙では買収が横行している。なんか明治も今もあまり変わらないなあと思ってしまった。(堀ちえこ)