
1月3日、ベネズエラの首都カラカスを含む複数の都市で爆発が起き、CBSなど米主要メディアは、「トランプ米大統領が、ベネズエラ国内の軍事施設などへの攻撃を命じ、米軍による地上攻撃が行われている」と報じた。マドゥロ政権は国家非常事態を宣言し、米国による「軍事侵略」を拒否すると表明した。
その後、トランプ米大統領は、ベネズエラへの攻撃を「成功裏に完遂した」と発表し、マドゥロ大統領と夫人を拘束しベネズエラ国外に連れ出したと発表した。日本時間の4日午後の時点で、マドゥロ大統領は米東部ニューヨーク市郊外の空軍基地に移送された後、市南部ブルックリンの拘置所に収容されたと米メディアが報じている。
一方、ベネズエラ最高裁は、マドゥロ大統領が米国に拘束されたのを受け、ロドリゲス副大統領に暫定大統領として職務を代行するよう命じている。
国際法をも無視した暴挙
「麻薬の撲滅」口実にした、あからさまな侵略戦争である。米軍のベネズエラへの軍事封鎖に反対していた諸国はもちろん、アメリカの対ベネズエラ政策に同調していた国からも、批判や懸念が噴出している。
アメリカでも、議会を無視して軍事攻撃に踏み切ったことに、議会の共和党内部からも批判の声が上がっている。「アメリカ国内の経済再建や、パレスチナ、ウクライナの和平が手詰まりのなか、国内の支持層の関心を他にそらそうとするものではないか」との意見が、ニュースやネットで散見されるが、その可能性は高い。
石油利権を狙う
ベネズエラの石油は2018年時点で3028億バレルという、世界最大の石油埋蔵国とされている。その3分の1にあたる1120億バレルは、オリノコ川流域に埋蔵されている、オリノコタールと呼ばれる超重質原油(オイルサンド)である。これは、アスファルトのように粘度が高く、出荷するためにはナフサや軽質油で希釈するなどの処置が必要であり、採掘にかかるコストが高い。
さらにベネズエラの石油は、採掘が可能でも、その精製技術はアメリカの企業が独占的に担ってきた。チャベス政権誕生後に、アメリカ合衆国との関係悪化と経済制裁で石油を精製する技術がないベネズエラは、石油資源を経済発展に導く術を失ってしまった。それが経済的な混乱の最大要因となっている。
トランプ政権は、「米国の石油企業が数十億ドルを投じて老朽化したインフラを再建する」と、アメリカ企業がベネズエラの石油インフラを再建して利益を得ると強調した。アメリカの勢力圏である「西半球」での経済的な利益の確保を最優先する。またトランプ大統領は、望ましい政権に移行するまで「アメリカがベネズエラを運営する」と主張するが、その道筋は何ら説明されていない。権力の空白によってベネズエラが混乱し、地域が不安定になる懸念は大きい。
中国の対応が焦点に
4日、中国外務省は、マドゥロ大統領夫妻を拘束した米国に対し「深刻な懸念」を表明し、夫妻の即時解放を求める報道官談話を発表した。「ベネズエラ政権の転覆」をやめ、対話を通じ問題を解決するよう呼びかけた。談話は「米国の覇権的行為は国際法に著しく違反し、ベネズエラの主権を侵害しており、断固として反対する」と強調している。米国に対して国際法を順守し、他国の主権への侵害をやめるよう求めた。
中国は反米派のマドゥロ政権との関係を重視してきた。習近平・国家主席は、昨年5月に訪問先のロシアでマドゥロ氏と会談している。ベネズエラは世界有数の産油国であり、大半が中国向けに輸出されている。この格安な石油輸出が中国経済を支える一因になっていた以上、トランプ政権によるベネズエラ石油利権の強奪は、米中間の緊張を一挙に高めることとなる。
危機を深める高市内閣
この状況が、高市政権をさらに危機に追い込んでいる。トランプが高市の「台湾有事発言」に制動を加えた。計画されていたベネズエラ侵略を前に、アジアで不安定要素の拡大を避けたのは明白だ。
高市は4日、自身のX(ツイッター)で米国がベネズエラのマドゥロ大統領を拘束したことに、「邦人の安全確保を最優先としつつ、関係国と緊密に連携して対応にあたっている」と投稿した。「4日までに、ベネズエラに暮らす約160人の邦人の大半と連絡が取れ、被害の情報は入っていない」と、米軍の侵略戦争を黙認している。
北村俊博・外務報道官は4日、談話を発表し、「わが国は一貫して国際社会における国際法の原則の尊重を重視してきた」と強調したが懸念や批判の表明はなく、米国に「配慮」した。「主要7カ国(G7)や関係国と緊密に連携しつつ、ベネズエラにおける民主主義の回復と情勢安定に向けた外交努力を進める」とした。
このような「逃げ」は、国際政治では通用しない。特に難民問題は深刻、国連UNHCRによると、ベネズエラ人の4人に1人、790万人以上もの人々が避難を強いられ、多くが安全を求めて国境を越え、670万人以上がコロンビア、ペルー、チリなど南米とカリブ諸国で受け入れられている。なかには、遠くアメリカ・メキシコ国境にまでたどり着く人々もおり、トランプ政権によって排除されている。
参考:国連UNHCRホームページ
https://www.japanforunhcr.org/appeal/venezuela
高市の「日本人ファースト」の態度に抗議し、アメリカ、中国の駆け引きのなかで犠牲となっているベネズエラ人民と連帯する、具体的行動が求められる。(淀川一博)
