
我が家に猫がきた
大阪に住んでいたとき、二人の娘は下が高校生、上が短大生だった。姉娘が、「友だちが猫くれる…。飼ってもいいやろ。私らで世話するから」と…。連れ合いは、実家で猫を飼っていたからか、「ええよ」と許可してしまった。私は、猫の方が人間より寿命が短いから、「猫の死ぬのをみたくない」と言って反対した。
次の日曜日に猫がきた。生後1カ月ぐらいの雄の子猫だった。連れ合いは「ロシアンブルーの血が入っている…」と喜んでいた。ミックスに違いないが、ひと懐っこい猫だった。訪問客であろうが、電気製品を運んできた兄さんにだろうが、愛嬌をふりまき身体をスリスリしにいった。名前は、娘たちが
「にゃっ君」と決めた。
猫の世話は、予想通りの展開…。娘らは一回だけ猫トイレの始末をしただけ、連れ合いと私のミッションになった。猫は、家中をウロウロ、遊びまくっていた。階段はぴょんぴょんと上がっていくが、降りるときは肉球が滑るらしく怖がって私たちの手を煩わした。
猫がやってきてから3カか月ほどしてから、去勢するために犬猫病院に連れて行った。費用はオスのほうが安い。獣医さんは、「この猫は大きくなる。猫エイズに罹る可能性が高くなるから、家の中で飼うように」と注意を与えてくれた。
獣医さんが予想したように、猫の体重は7キロを超えた。ひと懐っこいわりに、よく牙を剥き、私の顔を噛んで痛い目にあわせた。寝る時は私の布団に入ってきて、股の間でうずくまる。股関節が痛くてかなわんかった。

柱や壁はガリガリに
そのころ、少し環境の良いところに住もうと、現在の郊外に引っ越した。住み始めて5年ぐらいのころ、お隣のうちに親猫が子猫を連れてきた(台風だったから、子猫を避難させたのだろう)。生まれて間もない黒い猫が、餌を貰いにきたのだ。ところが、お隣は産まれたばかりの赤ちゃんがいて、仕方なく玄関の外に紐をつけ飼い始めた。紐が首に巻きつく様子を見て、娘と連れ合いが紐をほどきに行ったりしていた。そのうちに紐からぬけることを覚えた子猫は、我が家の玄関にくるようになった。
そんなことがあり、お隣が「飼ってもらえませんか」とお願いに来られた。私は嫌だったけれども、猫に恨まれて化けて出られるのもかなわんし、承諾した。身体は黒毛におおわれ、雌だったのでドラえもんの妹の「ドラミちゃん」に合わせ、名前は「クロミちゃん」になった。クロミちゃんにも、避妊手術を施すことになった。来た当初は、二匹とも元気で取っ組み合いをし、家じゅうを走りまわっていた。せっかく新築の家なのに、柱やカベを爪でガリガリ、無茶苦茶にした。
『猫を棄てる』村上春樹
村上春樹の小説に、『猫を棄てる』という短編小説がある。春樹少年とお父さんが、猫を自転車の後ろに乗せ神戸の海岸に棄てに行く話だ。猫を海岸に棄てた後、自転車で春樹少年とお父さんが家に帰ると、海岸に棄てた猫が、彼らより先に家に帰りついていて、二人とも気が抜けてしまい飼い続けることにした。
我が家に来たクロミさんも、飼い主の温情を無視してよく脱走をした。脱走しても、家の前でキャッチすることが多かったが、10日間ほど帰ってこなかったことがあり、諦めかかったころ「にゃ~」と声がした。戸を開けると、キョトンとした顔で私の顔を見つめ、「にゃ~」と言いながら家に戻った。
10日ほど外で生活していたはずなのに、身体も汚れておらず、お腹をすかせた様子もなかった。夫婦で「何をく~てきよったんやろ」とか、「ヘビかネズミでもくーとったんちやうか」と話したが、ホント不思議だった。
猫って、飼い主の家から半径300メートルが行動範囲らしく、帰巣本能が高いらしいです。野良猫とのケンカの跡もなく、猫エイズの心配もないと判断した。一方の先住民「にゃっ君」は、隙あらばと脱走を試みるが、動作が遅いため連れ合いに引き続き戻されるのが常であった。
クロミさんが我が家に来た当初は、2匹ともライバル意識が働いてか、よくケンカをしていた。お互い首のところを噛みあうのだが、怪我を負わせるほどでもないのが不思議だった。(つづく)(こじま・みちお)
